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俺だけの為にお菓子を作って来たのだと、成瀬は言った。
両手で優しく包み込まれれた袋を、顔を少し俯かせて差し出す後輩の耳元は、仄かな朱色に染まっていた。唯、お菓子を渡したいとしか成瀬は言わなかったが、今日という日と、心許なくしている様子に、奥に見える気持ちを読む。
誰も居ない教室に呼び出されたのは都合が良い、と思わず在らぬ方向へ思考が飛びかけたが、目の前で小刻みに揺れている髪へ、指を馴染ませるだけに留める。気分が穏やかになって来たのか、強張っていた表情も釣られて穏やかになって行く。
ゆったりし過ぎて眠ってしまうのでは無いかと思っていると、両手の中に収まっていた袋をぐい、と俺の胸元へ押し付けた。
力加減が出来ていない成瀬の手から袋を取り上げ、本当に貰って良いのか問い質す。
「初めて作ったから味の保障は出来ませんが……桜井さんが貰ってくれるなら……」
この後輩は時折、使う言葉を間違えてくれるから、とても困る。
また在らぬ方向へ思考が飛びそうになるのを堪えた俺は断る筈もなく、成瀬が作った初めてのお菓子をしっかりと受け取った。
拒絶されなかったのが嬉しかったか成瀬は、まだ朱くしたままの顔で柔らかな笑みを浮かべている。
「作り方は澤村に聞いたんですけど……作ったのは一人きりだったから大丈夫かなっ……て……」
出来れば澤村から聞かずに、本やインターネットで調べて作って欲しかったものだ。
自分の嫉妬心には毎回、新たな発見をさせられ、苦笑いしか浮かばず、澤村への心持ちが表情に出てしまう。そぐわない顔色に成瀬が、不思議そうに小首を傾げて見詰めて来る。
また後輩は、人の心を掻き乱す様な事をしてくれる。
自覚が無いのが、困りものだ。
可愛らしい姿に苦笑いを消し去り、心からの微笑みを送ると成瀬は、一層に顔を朱に染め上げた。
「ありがとう。早速、頂いても……良いかい?」
「は……はい……っ」
女の子が作ったものじゃ無いからだろう、ラッピングも質素な茶袋をホチキスで口を封したものだった。手作りしましたと、貴方だけの為に作りましたと、言ってくれているのだと伝わる。
封を、成瀬が緊張した面持ちで見つめる中、優しく開いて行く。すると、甘い香りがふわりと漂う。微かに、焦げたような香りも混じっていたが。
それは、初めて作ったものだから仕方の無いことだと俺は、袋の中に手を入れて探る。一つ、何となく指先に馴染んだものがあり、素直に取り上げた。
ココア色した小さなクッキーが、顔を見せた。
端の方が少し焦げ付き、黒くなってしまっていた。綺麗とは言い難いが、一生懸命に形を整えハート型にされている。流行りのデコレーションも、白やピンクのチョコレーペンで施されていた。
眉尻を下げて心配そうにこちらを見ている成瀬に、ありがとう、と礼を言い口の中にクッキーを放り込んだ。
「……ど……どうですか?」
「……あ、ああ。美味いよ。初めてにしちゃ上出来だよ」
一瞬、言葉が遅れてしまうが、成瀬は気付いていないようだった。
助かった、と胸の内だけでそっと溜息を吐く。
俺の言葉に安心したのか、手近に有った椅子へと後輩は、座り込んでしまった。
「よ、良かった……作ってる最中に、道具をひっくり返しちゃって……んっ?!」
なるほど……
どうりで甘すぎる筈だ。
俺が、成瀬の問い掛けに言葉が咄嗟に出てこなかった訳は、これだった。
クッキーを口に入れた瞬間、甘すぎて驚いたのだ。
塩辛いよりも甘い方が断然、良い。
道具をひっくり返した認識はあったが、そのばらまいてしまったものの中に砂糖があり、作っている生地に零れ落ちた事に気付いていなかったのだろう。そのまま作り上げ……
「味見は、しなかったのかな?」
「……すみません……」
成瀬らしいと言えば失礼に当たるが、やはり成瀬らしいとしか表現できなかった。
クッキーを噛み砕きながら少しおっちょこちょいの後輩は、肩をすぼめて小さくなって行く。
そして、怖ず怖ずと俺の方へ両手を差し出し、渡したものを返して欲しいと懇願してきた。
初めて……俺だけの為に作ってくれたものを、失敗していたにしても、むざむざと返すつもりは毛頭無い。
「成瀬がくれたものを返すなんて、罰が当たるよ。そのかわり……」
――――口直しにキス、して欲しい。
差し出してきた両手を掴んで引き寄せた俺は、成瀬が困ってしまう事を言葉にして強請った。
普段なら嫌がって逃げ出すのがオチだったが、今日は違っていた。
成瀬は、綺麗な朱に色付いた顔を上げ、俺の腕に自身の両手を預ける。
一瞬だけ瞳を合わせると、うっすらと涙が浮かぶ瞳で見詰めて来た。
そして、そのまま瞼を伏せると……
成瀬は、少しだけ背伸びをして、俺へ唇を差し出すのだった。
キスして / 20110212
三日かかりましたよ、三日!!!
ひぇぇぇ~
どんだけ自分が「一人称」苦手なんか、よー判った(/_;)
そんなこんなで、桜井さん一人称のバレンタインデーネタ。
しかもゴーイングで鬼の桜井修司が出来上がり……書いた桜岡、わたわたしてます!!
でも今更…男だぜ、後には引けない(by桜井修司)と進めたら……ドエライ事になりました。
すみません、すみません…土下座↓
そんなこんなで、こっぱずかしいので、これ以上の言い訳はするまい!と腹を括って退散します。
か弱いオッサンなんで、ツッコミは堪忍してやってくださいな。苦笑。
少しでも甘すぎなバレンタインデーネタ、楽しんで頂ければ幸です。
駄文、お付き合いの程……本当に本当にありがとうございました!!
「大作の様子は?」
「今、落ち着いたところよ。健二さん……少し代わって下さる?」
「ああ。銀鈴も付きっきりだったから疲れただろう。休んでくると良い」
髪をかき上げた時、チリンと鈴のピアスを鳴らせた銀鈴は、村雨健二に礼を言うと入れ違いに部屋を出た。
大作の眠るベッド脇にある小さな机にある解毒剤を、飲ませる事を忘れない様に念を押して。
護っていた大作を連れ去られ、こんな目に遭わせてしまったのは自分の責任だ。
村雨は普段ならば、真っ直ぐすぎるこの子供との距離を置いていただろう。
しかし、自身のミスからこの子供を……草間大作を死に至らしめる程の目に遭わせてしまったのだと、自責の念に駆られていた。
簡素な病室に似合いの簡素のベッドには、容態が一時落ち着いたばかりの大作が眠っていた。
子供で小柄な彼に合う寝間着などはなく、大人用のものが宛われていた。その所為かズボンなど穿かずとも、上着の大きさでほぼ全身が包み隠されていた。
ベッドの側机には、先ほど銀鈴が言っていた解毒剤と水差しが置かれていた。
連れ去られ一服盛られたか、村雨達が大作の元へ駆けつけた時には既に危険な状態だった。
もしもの為にと渡されていた呉学人の秘薬が功を奏したか、一命は取り留めた。
だが、夢現になると大作は、自分の見たくないモノを見せられるのか、暴れ出してしまうのだ。
人には一つ、二つ、自身の目から背けたい、逃げたいモノがあるだろう。
それを無理矢理に見せられている子供の精神は、平静を保てるものではなかった。
大人の自分でも、律する事ができるかどうか……
村雨は、今は薬の効力で良く眠っている大作の手を取り、自身の五指を絡めて繋いだ。
「護ってやれずにすまなかった……」
子供の大作の手と、大人の自分の手を繋いだ村雨は、頬を伝う涙はそのままに彼の目覚めを静かに待ち続けた。
手を繋いで / 20110206
何時発表されるかとドキドキしているジャイアントロボプチオンリーに寄せて。
大阪で~とのお話を小耳に挟んでいるので、楽しみに待っています。
っていうか自分、参加するにしても・・・越境〈マガジンでスペース取る為〉参加になるんだけど・・・良いのかなぁ。汗。
まだ、きちんと詳細も知らないので判らないですが、あったら絶対参加するっすよ♪
そんなこんなで、村大。
この方達は戦ってナンボの世界の方々なので、こんなにギリギリな話しになってしまいました。
正直、戦いとかの話しは知識が皆無なので苦手〈逃げてると言う。すみません〉なんですけど、そんな一部分だけなら・・・と頑張ってみました。
大作くん、辛い目に遭わせてごめんなさい。
だけど、目を開ければ嫌いな〈ホントは気がかりな存在〉村雨さんが居ますが、彼はじっと君の目覚めを待っているので・・・起きてきてあげて下さい。
夢現で見ているものは・・・察すれば何とやらです。
ま、そんなモノを見せられています・・・子供の大作くん。苦笑。
駄文ではございましたが、お付き合いの程、ありがとうございました。
「此処まで来ちゃったけど……怒られないかな」
迷惑だって事も、ちゃんと判っている。こんなちっぽけな頭の中身をしている俺でも。
桜井さんが大切な試験を控えていて、他人に構っている暇なんて無い事を。
部活は引退、学年も違うと言う壊滅的な状況。
構内を移動している姿を、人と人の隙間から一方的に見ていたり、偶然に廊下で擦れ違ってひと言、ふた言言葉を交わす程度の触れ合い。
それだけでも良し、としなければならないのに、我慢の効かない俺の心は、走り出してしまっていた。
お守りを渡す口実を作って俺は、桜井さんが通っている予備校の前に来ていた。
もう追い込みをしている時期だから、何時終わるとも判らない受験勉強を、煌々とした教室の中でしているのだろう。
少し離れた場所から、桜井さんが居るだろう教室を見上げる。
人の頭が幾つか見えるくらいで、先生が教壇に立つという行為は伺えなかった。
きっと自習をして、個々に帰って行くのだろう。
俺が此処に来てから……どれくらい時間が経ったかなんて判らないけど、人の動く気配と、予備校を出、町中へと消えて行く姿を幾度か見た。
そろそろ、もうそろそろ。
そんな思いをして、ポケットの中で握りしめているお守りと共に、桜井さんを待ち続けた。
「……あ!」
確か、此処に来た時はうっすらと茜色した光が空に残っていたのに今は、すっかり様相を変えてしまっていた。
深い深い紺碧の海へ、沈んで行く真珠が仄かに輝く様な星空が広がっていた。
本当は寒いはずなのに、待ち過ぎて肌の感覚が殆ど無く、きっと笑っても強張っているかも知れない。
だけど、待っていて良かった。
俺の待ち人が、予備校のあるビルの玄関口から出てきたのだ。
小さな声を上げて、小さな喜びを表した俺は、わざとらしいけど偶然を装って近づいた。
へら、と締まりの無い緩い笑顔をして声を掛けると、桜井さんは目を丸くして俺を見る。
どうしたんだ、とお決まりの言葉を口に微笑んでくれた。
寒さなんて忘れてしまう、冷えた空気を暖かくしてくれる桜井さんの声がじわり、と俺の身体を浸食して行く。
心地良くて口実を一瞬、忘れてしまいそうなんった俺は、首を一度、二度と振り握り締めていたお守りを手渡した。
「学校で会った時でも良かったのに……ありがとう」
制服の上にダッフルコートを羽織り、マフラーで首元を暖めている桜井さんは、していた手袋を外して俺の髪を撫でた途端、怒り出し強い力で腕を引かれた。
「何時から居たんだ!!」
「え……えっと……その……」
----逢いたかったから、ずっと待ってました。
なんて口が裂けても言えず俺は、桜井さんが何処へ行こうとしているのか判らないまま、腕を引かれるがままにされていた。
口籠もっている俺を、薄暗い路地に押し込んだ桜井さんは、自分の身体で外界とを遮断した。そして、手袋をしていない両手で、俺の冷え切った頬を包み込んだ
俺の肌の温度と、桜井さんの肌の温度は違い過ぎて、お互いに息を飲む。
とても怒っている眼鏡の向こうにある瞳が見れなくて、ごめんなさい、と言った俺は顔を下げた。
暖かく包んでくれていた桜井さんの両手は、体温を分け与える様に頬を滑り降りて行く。
「無茶をしないでくれ。逢いたいなら『逢いたい』と素直に言ってくれ……」
----その方が、俺は嬉しいんだ。
俯いたままの俺の耳元で熱く囁いた桜井さんは、ダッフルコートのボタンを外し前を開くと……俺の身体ごと抱き締めてくれた。
両手で包んで / 20110206
初めてモバイルパソコンで書きました。
やっぱサクナルか~って思いながら。
本当は、このお題で別のサクナル小話を携帯で打っていたのですが、だんだんと暗くなっていって放棄。涙。
視線を変えて、こちらで上げさせていただきました。
最後の桜井さんが、一歩間違えたら危険人物になりかねん行動をやらかしてますが・・・すみません。滝汗。
両手で頬を包むってネタは先週、師匠と京都へ行った時に互いの手の温度があまりにも違っていた・・・と言うところから頂きました。
私の手がすんごい冷たかったんです・・・手袋とかしてなかった所為で。
寒い時期のお話、ホッコリしていただけましたら幸いです。
駄文、お付き合いの程、ありがとうございました。
しかし、一人称・・・苦手や。涙。
その背中は、手を伸ばせば触れることが出来る。
その心は、手を伸ばしても触れることは出来ない。
どうか――――
振り向いて。
心ごと振り向いて……私を見てください。
村雨さんと組むと、絶対にこんな扱いをされる。
だから、子供なんだ。
これだから、子供は……
失敗している訳では無いと、思う。
失敗していないから、注意されたり叱られたりはしない。
だけど口を開けば、話の最後には『子供』と付け加えられる。
「そんなに子供、子供って言わなくても良いじゃないですか!! 僕だって……僕だって……」
――――ここの一員です!!
言いたかったけど、言葉は僕が思っているほど簡単には出て来なかった。
口の中で渦巻いて、出口の無い音は嵐となり吹き荒れる。
このままだと何を言い出すか分からない、自分でも制御出来ないかも知れないと真一文字に唇を結んだ。
「言いたい事があったんじゃないのか?」
一歩も二歩も先を歩く村雨さんは振り返りもせず、コートで被われた広い背中を僕に向けたまま問い返す。
別に、と顔を見られていない事を良しとして、頬を膨らませ地面を睨みつけていた。
「……そんな風だから、子供だと言うんだ」
「え……っ?! わっ?!」
俯いていた所為で、気付かなかった。
いつの間にか村雨さんは歩みを止め、僕の方を振り向いていたのだ。
村雨さんの靴先が、視界に入った時にはもう手遅れで、大人のしっかりとした胸元に顔をぶつけてしまっていた。
「馬鹿だな。子供でも大人でもお前は、お前だ……大作」
比べものにならないくらい大きな村雨さんの両腕に、頭の先から包み込むように抱き締められた僕の耳元で、こう言った。
そして、心臓が痛いくらいに跳ねている僕の身体を、村雨さんは自分の隣に並べて肩に手を添える。
「俺と一緒に組む時は、こうして隣に居ろ。自分から後ろに下がって線を引くな。大人でも子供でも、どちらの大作でも……」
――――俺は、好きだ。
好きだ、の言葉は、僕の背に合わせて村雨さんが屈んで言ってくれた。
びっくりした僕が顔を向けると、村雨さんの暖かくて少しカサカサとした唇が、真っ赤になった頬に当たっていた。
振り向いて / 20110123
これまたン年ぶり?な村大です。
二人のやり取りで、楽しんで頂ければ幸です。
アニメ中、子供が口癖の村雨さん。そう言われるのが嫌な大作くん。
少しずつ、少しずつ歩み寄って(専ら村雨さんが折れる)行く「第一歩」になればよいな……と思って書きました。
ホントに小話ですが、お付き合いありがとうございました!!
身体の奥まで深く染み入る貴方の声で、
私の名を永遠に囁いて下さい。
澤村正博は、小林純直をアパートへ招いていた。
『水と油』と称されている間柄と言うのに、彼を招いた理由が勿論、あったからだ。
一月二十日。
これは、目の前で仏頂面している小林の誕生日の前日である。
澤村は日頃、色々な……本当に色々な意味で世話になっている小林の誕生日を、祝いたいと密かに思っていた。
しかし根が捻くれている澤村には、素直に彼の誕生日を祝う術を知らずにいた。
そこで成瀬を半ば騙し、他の面々を集めさせた。
ただし、それが小林の誕生日を祝うものだとは告げず、新年会と言うオブラートに包んで。
場所と料理の腕前は披露するからと澤村は、食材や人集めは成瀬に任せ、留めに『何としても小林を引っ張って来い』と注文を付けた。
どこか理不尽を感じた成瀬は渋ったが、桜井も引っ張って来いと言ってやると、犬ころの様にはしゃいで澤村の手足となって働いた。
――――あいつが単純でホント良かった。
成瀬を手の平の上で良いように扱い、目的を達成させた。
可愛い子に呼ばれては……呼ばれなくとも成瀬の姿があればやって来る桜井は、部屋に揃った面子を見、美味しいのは自分だけじゃないか?等と嫌味を言われた。しかし、口の減らない澤村は、お互い様だと先輩を突いたのだった。
***
「騒がしくして悪かった」
「は?! あぁ……ここ、ちょっとぐらいじゃ迷惑、かかんねぇぜ」
周りがより以上に騒がしいから、心配はしなくて良い。
澤村は、部屋に残っている小林の声に答える。
そうか、と小さな台所に向かって水音をさせている澤村の背中へ一声、投げ返すと黙々と片付けの手を動かしていた。
集まった人間の、余りの騒ぎ様に小林一人が注意して回っていたが、誰ひとりとして聞く耳持たなかった。
出された料理の美味さに争奪戦となり、成瀬筆頭に食い意地の張った者達は、弱肉強食の世界へと突入する。静かに、所作美しく食事を嗜む小林は耐え切れずに怒鳴るも、一番の年長者・桜井に捕らえられ、話相手をさせられていた。その様子を見た澤村は、桜井の視界へ入るように親指を立て、無言の礼を送っのは言うまでも無かった。
深夜近くまでどんちゃん騒ぎをしていた面々は、桜井が発した電車が無くなるとの声に、蜘蛛の子散らすように帰って行った。
成瀬は、片付けに残ろうとしたが……最後まで良い仕事をしてくれる桜井が、引っ張り連れ帰った。
ところが。
帰りそびれたか、周りに圧倒されたか小林だけがポツン、と澤村の部屋に取り残されていた。
「自転車で来ているから、片付けくらいはして帰る」
言葉と共に身体を動かし始めた小林を止めることは出来ず、澤村は有り難く甘えることにする。
台所へと汚れた食器を運び、フローリングに散った物を集めていた。
(真面目なんだか、貧乏クジなんだか……)
小林の様子を、横目で伺いながら澤村はポツリ、言葉を零す。
しかし、この部屋で二人になる事を仕組んだのは、何を隠そう澤村だった。
本当の誕生日は明日なのだが、当日に小林を呼ぶと周りに意図が見えてしまうかも知れない。ましてや黒幕の桜井や、妙な所で感の良い成瀬に至っては、口を滑らせかねない。そこで澤村は、この手段を取ったのだ。
「終わったぜ。悪ぃな、手伝わせて」
テーブルなんて洒落た物はない澤村の部屋。
フローリングの上に直接座っている小林の前へ、煎れたての茶を差し出した。
夜中になり、少し冷えた室内の温度が、茶の湯気で仄かに上がる。
礼を言った小林は、澤村の愛の篭ったそれを口にして、身体の芯を温めた。
「っと。俺も一服」
同じ様に湯呑みを手にした澤村は、小林の横に腰を下ろしてそれに口を付ける。一服、の単語に肩を震わせ、煙草に手を出すのでは無いかと眉間に皺を寄せる。小林は、澤村を睨みつけたがお門違いで、間違いを隠すように茶を啜り続けるのだった。
その様に、彼の思ったことが見えたか澤村は、くすり、と喉を小さく鳴らせて淡く微笑んだ。
「おっと、忘れるトコだったぜ。あんた、まだ腹に余裕あるか?」
散々食べ尽くしたのに何を思っているんだろうと小林は、まだ笑っている澤村をしげしげと見詰める。
どうだ、と無言の問い掛けに、余裕があると頷いて見せると澤村は、一層に笑みを濃くして立ち上がった。
一挙手一投足を座ったまま眺めていると突然、窓を開いて澤村は身体を外に乗り出した。
暖房の無いこの部屋に、冬の夜風は厳しくて驚いた小林は、止めさせようと立ち上がったが、フローリングに足を掬われひっくり返ってしまう。
「何、やってんだ?!」
「お、お前がだなっ……」
――――いきなり窓を開けるからだ!
そう言いたかったのだが、顔面を強打してしまった小林は、打った箇所を押さえて痛みと声を耐える。
何時もの澤村ならば、茶化す様に大笑いしただろう。しかし、呆気には取られたが笑う事などせず、床に丸まっている小林を起こしてやる。すると、面目無いと大きな身体を小さくしてしまった。
「外にしか隠す場所、無くてよ……これ」
俯いて正座している小林の、落とした視線に入るように澤村は、小さな皿に乗せてある物を置いた。
それは、綺麗な翡翠色をした小振りなケーキだった。
甘い洋菓子はきっと苦手だろうと、クリームは極力押さえ抹茶を主体に栗や小豆を添えた一口サイズの物が数個、乗せられていた。
「あんたの為だけに……つっ!!」
――――作ったんだぜ。
そう続くはずだった言葉を遮られた澤村の視界は、何時の間にか天井の明かりと白い壁を映していた。
フローリングで頭を打ち付けた痛さよりも、小林に強く強く両の腕で抱き締められている事が驚きの対象になる。
唯、がむしゃらに身体を抱いている小林へ、ちゃんとこの部屋に呼んだ事とケーキの意図が通じたのだろう。
驚いていた澤村は天井を見詰めたまま、上からのしかかっている小林の背へ指先を立てて掻き抱く。
「……な、名前」
「……名前?」
「そう……あんたの声で名前、呼んでくれよ」
手の平に感じる温度が一瞬、上がったように感じた小林は、恥ずかしがっているであろう腕の中に在る人の顔は見ずに、薄紅に染まった頬に自身の唇を寄せる。
「ありがとう、正博」
肌と肌を触れ合わせると、彼だけにしか届かない声色で、その名を囁いたのだった。
その時ちょうど……午前零時を時計の針が指していた。
名前を呼んで / 20110121
ゴーインに「お題目」に持って行ったので、空中崩壊気味ですみません!!
改めて小林純直……誕生日おめでとう!!
この人ら、ホントに何時までたっても上手に動かせなくて、ほとほと困ります。苦笑。
確か二年前のコバ誕でも、名前を呼ばせるネタがあったと思いますが、今回は…可愛い人(可愛いか、澤村?!←絞め殺されるぞ、桜岡)にねだられて…っつ事で、見逃してやってください。滝汗。
平刻以来ずっとチマチマ、チマチマ~しておりましたが、ようやく終わりました。
相変わらずド下手な小話ですが、少しでも楽しんで頂けましたら幸です。
改めて……
誕生日おめでとう!
澤村献上しますので、随意に……小林先輩♪←固まって手だし出来ないか、男前スイッチOnして……(こらーっ!!)