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「此処まで来ちゃったけど……怒られないかな」
迷惑だって事も、ちゃんと判っている。こんなちっぽけな頭の中身をしている俺でも。
桜井さんが大切な試験を控えていて、他人に構っている暇なんて無い事を。
部活は引退、学年も違うと言う壊滅的な状況。
構内を移動している姿を、人と人の隙間から一方的に見ていたり、偶然に廊下で擦れ違ってひと言、ふた言言葉を交わす程度の触れ合い。
それだけでも良し、としなければならないのに、我慢の効かない俺の心は、走り出してしまっていた。
お守りを渡す口実を作って俺は、桜井さんが通っている予備校の前に来ていた。
もう追い込みをしている時期だから、何時終わるとも判らない受験勉強を、煌々とした教室の中でしているのだろう。
少し離れた場所から、桜井さんが居るだろう教室を見上げる。
人の頭が幾つか見えるくらいで、先生が教壇に立つという行為は伺えなかった。
きっと自習をして、個々に帰って行くのだろう。
俺が此処に来てから……どれくらい時間が経ったかなんて判らないけど、人の動く気配と、予備校を出、町中へと消えて行く姿を幾度か見た。
そろそろ、もうそろそろ。
そんな思いをして、ポケットの中で握りしめているお守りと共に、桜井さんを待ち続けた。
「……あ!」
確か、此処に来た時はうっすらと茜色した光が空に残っていたのに今は、すっかり様相を変えてしまっていた。
深い深い紺碧の海へ、沈んで行く真珠が仄かに輝く様な星空が広がっていた。
本当は寒いはずなのに、待ち過ぎて肌の感覚が殆ど無く、きっと笑っても強張っているかも知れない。
だけど、待っていて良かった。
俺の待ち人が、予備校のあるビルの玄関口から出てきたのだ。
小さな声を上げて、小さな喜びを表した俺は、わざとらしいけど偶然を装って近づいた。
へら、と締まりの無い緩い笑顔をして声を掛けると、桜井さんは目を丸くして俺を見る。
どうしたんだ、とお決まりの言葉を口に微笑んでくれた。
寒さなんて忘れてしまう、冷えた空気を暖かくしてくれる桜井さんの声がじわり、と俺の身体を浸食して行く。
心地良くて口実を一瞬、忘れてしまいそうなんった俺は、首を一度、二度と振り握り締めていたお守りを手渡した。
「学校で会った時でも良かったのに……ありがとう」
制服の上にダッフルコートを羽織り、マフラーで首元を暖めている桜井さんは、していた手袋を外して俺の髪を撫でた途端、怒り出し強い力で腕を引かれた。
「何時から居たんだ!!」
「え……えっと……その……」
----逢いたかったから、ずっと待ってました。
なんて口が裂けても言えず俺は、桜井さんが何処へ行こうとしているのか判らないまま、腕を引かれるがままにされていた。
口籠もっている俺を、薄暗い路地に押し込んだ桜井さんは、自分の身体で外界とを遮断した。そして、手袋をしていない両手で、俺の冷え切った頬を包み込んだ
俺の肌の温度と、桜井さんの肌の温度は違い過ぎて、お互いに息を飲む。
とても怒っている眼鏡の向こうにある瞳が見れなくて、ごめんなさい、と言った俺は顔を下げた。
暖かく包んでくれていた桜井さんの両手は、体温を分け与える様に頬を滑り降りて行く。
「無茶をしないでくれ。逢いたいなら『逢いたい』と素直に言ってくれ……」
----その方が、俺は嬉しいんだ。
俯いたままの俺の耳元で熱く囁いた桜井さんは、ダッフルコートのボタンを外し前を開くと……俺の身体ごと抱き締めてくれた。
両手で包んで / 20110206
初めてモバイルパソコンで書きました。
やっぱサクナルか~って思いながら。
本当は、このお題で別のサクナル小話を携帯で打っていたのですが、だんだんと暗くなっていって放棄。涙。
視線を変えて、こちらで上げさせていただきました。
最後の桜井さんが、一歩間違えたら危険人物になりかねん行動をやらかしてますが・・・すみません。滝汗。
両手で頬を包むってネタは先週、師匠と京都へ行った時に互いの手の温度があまりにも違っていた・・・と言うところから頂きました。
私の手がすんごい冷たかったんです・・・手袋とかしてなかった所為で。
寒い時期のお話、ホッコリしていただけましたら幸いです。
駄文、お付き合いの程、ありがとうございました。
しかし、一人称・・・苦手や。涙。