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『時間』 
 
 
 
「やっと終わった……」
 
ぐん、と天井向けて大きな手を伸ばした桜井は、立って伸びをしたらグーパンチで天井ぶち抜くかもな、と予備校仲間にからかわれていた。
 
「進学決めてる奴ってさ、だいたい二年の終わりで部活引退するだろ? お前医者になりたいって言って、部活とかやってて良いのかよ?」
 
学校とは違う仲間達は、殆どが勉強一本に絞り、部活を引退した人間ばかりだった。
桜井だけがいまだに部活……バスケットボールを続け、それだけでは飽き足りず、数名以外には内緒だがストリートバスケにも顔を出す始末。
身長も体格も、頭も機転も良い。
やり手の桜井がチームから抜ければ、戦力大幅ダウンになること間違い無しだが、やはり先を見据えれば勉強に集中すべきではないかと話す。
 
「目標高いだけに、何時までもやってらんねぇんじゃない?」
 
「うちの部は、人数がギリギリいっぱいのところもあるし、俺が抜ければ試合には出られなくなるかも知れない。勉強も大切だが今、少しでも長く一緒にプレイしたい後輩が入って来たんだ。だからこの夏が終わるまで、インターハイ出場目指してプレイしたいんだ」
 
「おーおー、熱い熱い。意外と天然でクールなお前が、バスケの事になると、ホント熱くなるよな」
 
「つい、喋りすぎた……悪い」
 
「それだけ楽しいんなら良いじゃん。羨ましいし、嬉しいよ、そんな桜井見るの」
 
腹減ったし帰ろうぜ、と音頭とる仲間に付いて、片付け終わった人間から教室を出て行き、桜井も部活のものと教材の入ったバックを肩から担ぎ、予備校の教室を出た。
 
 
 
玄関まで纏まって来たが、また週明けにと挨拶をし、散り散りと帰宅の途に付く。
そんななか桜井は、予備校の隣にあるファストフード店の、道路に面したガラス窓の向こうにいる後輩へ、合図を送る。
部活後で腹が減っているのは判るが、一体いくつ食べたのだ?と、目の前に見えるトレーに乗った紙屑の山に、笑いが込み上げてくる桜井だった。  
笑われていることに拗ね、顔を赤くして頬を膨らませる後輩は、慌ててトレーを片付け、桜井と同じようにバックを肩から担ぐ。自動ドアの開く動作が遅いと、出来た隙間に身体を横にして押し込み、無理やり出てきた。
 
「無茶をするな、成瀬」
 
「おっ、お疲れ様です、桜井さんっ!! 待たせてしまって、すみません!!」
 
「待ってない、待ってない。今、このガラス越しに顔、見ていたじゃないか?」
 
先輩の桜井は予備校で勉強していたのに、後輩の成瀬はファストフード店で、仲間達と少し前までにぎやかしくしていたのだ。
腹も減り、勉強で疲れてるだろうに今日、成瀬の『お願い』を快く聞いてくれた優しい先輩にこれ以上、迷惑を掛けてはいけない。
その思いから急ぐ動作をするのだが、逆に空回りをしている後輩は、ドタバタと無駄な動きをしていた。
額に浮いた汗を拭い、一生懸命に行動する成瀬を見詰め、可愛いなぁと眼鏡の奥にある目を細める。
桜井は、白シャツに黒スラックスの成瀬の背に手を添え、少し食事がしたいとにこやかに話す。
 
「今から映画だろう? 見ている最中に腹が鳴ると恥ずかしいから、何か食べて良いか?」
 
「あ──じゃ、この店で一緒に食べれば……す、すみませんっ!!」
 
「あははは。ま、成瀬はもう食べないだろうから、映画館で荷物と一緒に待っていてくれ。その辺りで適当に、食べてくるから」
 
「え、えっと……一緒にいちゃ、ダメですか?」
 
桜井より約二十センチも小さな成瀬は、大きな黒い目で見上げる表情が、恋した人をひとり待つのは嫌だ、置いて行かないでと見えてしまう。
何て顔をするのだ──と。
親からはぐれないように手を握る子供の心理か、先輩へ身を寄せた後輩は、シャツから出ている逞しい腕に手を添えた。
 
「な……成瀬?」
 
「あ……あの、桜井さんの貴重な時間を俺にくれたのだから、一分一秒も無駄にしたくない。僅かでも離れているのは──嫌だ」
 
成瀬の手のひらは熱く、触れ合っている皮膚は更に熱を生み、どちらもじんわりと汗が滲んで来ていた。
初めてストリートバスケで戦った時から、淡く漂っていた感情。
同じ学校で先輩後輩の関係になり、共にコートを駆け回り、日常も共有する事になってから、更にその感情は膨れていた。
今、この姿を目の当たりにし、桜井の成瀬に対する『感情』は、決して消えることないものだと確信する。
 
「俺、今日、誕生日なんです……大好きな桜井さんと一緒に、少しでも一緒に居たくて映画に誘いました。勉強もあるのに、迷惑なのに桜井さんがオーケーしてくれて、嬉しかった。だから貴重な時間、無駄にしたくない」
 
成瀬もまた、桜井と同じ『感情』を抱いているのだと。
だから、このような恋をしている表情になるのかと。
桜井は判ったとだけ言い、週末の眠らない街を、はぐれてしまわないように手を握り、歩き始める。
力強い大きな手は熱く、その熱は成瀬の身体をじわりじわりと浸食して行く。
 
「お、怒りましたか?」
 
「いや。怒るどころか、明日が日曜日で良かったと……思っている」
 
食事も映画も、睡眠も目覚めも。
一緒に居ようと、前を向いたまま言う桜井を見上げた成瀬は、眼鏡の弦が引っかかる耳が赤くなっているのを見付ける。
返事の代わりに握られた手を握り返し、前を歩く先輩の背中を、空に浮かぶ月のように丸くした目で、嬉しいですと後輩は見詰めていた。
 
 
20190615
 
 
 
 
 
 
 
 
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『熱い、冷たい』
 
 
しょっちゅう来るわけでは無いが、来れば来るほど、見れば見るほど、金持ちの象徴のような屋敷だと草薙京は、そそり立つ鉄門の前で溜息を吐く。
てめぇが住んでるマンションで良いだろう、と愚痴たいのは山々だったが、特別な日だけに仕方ないかともう一度溜息を吐き、インターフォンのボタンを押す。
どなたですかと女性の声で機械越しに問われ、氏素性を言えば直ぐに鉄門が自動で左右へ開き、屋敷中からメイドがやって来る。
呼び付けた癖に本人が出迎えないのかと、目尻と口角を引き攣らせた京は、手にしている物を焼き消してしまいそうになったが、ぐっと堪えた。
メイドに先導されなくても、この家の勝手を判っていたが、特別な日に呼び出されたが故、大人しくその背を見詰めながら後ろを歩いた。
 
 
広間からテラス、そして初夏の光浴びる庭には大勢の招待客が、食事や飲み物を手に、またはソファや木陰のベンチへ腰掛け、好き好きに談笑していた。
来るべきではなかったと後悔するも、年に一度くらい我が儘を聞いてやると微々た優しさを見せたのは、自分だったと苦笑いする。
場違いの甚だしさに京は、手のものを擦り付けさっさと帰ろうと姿を探すが、あのど派手な金髪が見当たらない。
テラスから庭を見回し、中へ移動し広間も見たが、どうやらここには今、居ないようだ。
客ほったらかして何やってんだ?と苛々していると、京の存在に気付き始めたか、周囲がざわめき出す。
気付かれたくないのに、金髪の隣に居るだけで否応なく目に付き、そして人々の記憶に残ってしまう紅蓮の焔を纏い、操り闘う草薙の継承者。
同じチームを組む大門五郎と共に、騒がれたくない、地味に静かにして居たいと常々思っているのだが……
 
「駄目だ、耐えらんね……台所へ行ったら、誰か居るだろう」
 
視線とざわめきを不快に思い始めた京は、広間を出て誰もいない廊下を歩き、台所と口にしたキッチンへやって来た。
そこにいたメイドに声をかけ、手にした箱を渡し、冷凍庫で保管して貰うように話す。
今日の主役が、一息吐いた時にでも食わしてやって欲しいと伝言し、帰る旨を伝えれば、メイドは引き止めを試みる。しかし頑なに良いと手を振れば京の申し出を尊重し、メイドはエントランスまで見送ると先導を始めた。
彼女達の仕事だから仕方ないかと諦めた京は、またその背中を見ながら歩いていた。
 
「アイツ居なかったけど、客ほったらかして何やってんだ?」
 
「きっと、お召し変えだと思います。少し前に、お部屋へ向かわれていました」
 
「そ。女じゃねぇんだから、着替えなくてよろしいかと思いますが……紅丸さん?」
 
「仕方ねぇだろう、半分仕事なんだからよ。世話になってるアパレル会社のお偉方が、宣伝兼ねたプレゼントに洋服や着物、作ってきたんだから」
 
メイドに礼を言い、その役割を変わるために、屋敷の息子で今日の主役である二階堂紅丸が、上階から降りて来た。
闘うときは金色の髪を、守護の雷を纏って逆立てているが、今は降りているそれを後頭部で束ねて紫の紐で括り、結び目に一輪のカサブランカと数本のカスミソウが挿してある。
女物のように見える緋色の着物に銀糸で織り込まれた花吹雪、漆黒の帯を締めている紅丸は、これも宣伝塔の役目なんだと苦笑していた。
 
「しっかし派手だな……これ以上、近寄んじゃねぇぞ、紅丸」
 
「つれないなぁ京……だから仕事なんだってば、半分。あそこにいる人達さ、着飾ってるじゃん? 招待状には普段着でって書いたのに、あれだぜ? もう目の前にいる京が、普通ですっごい落ち着くんだ」
 
「だいたいなぁ、てめぇの誕生日祝いの会を、てめぇで開く奴がい──居たな、はい、目の前に居ました」
 
「はぁー……やっぱ落ち着く。こんな砕けた口調で喋れんのと、この何時もと変わんない出で立ちに、癒される」
 
「嫌みかよ。渡された招待状なんて中身、見てねぇし、お前が来い来いっつーから来ただけだ。顔も見たし、あの中には混じりたくねぇから、帰るよ。見送り、ご苦労さん」
 
仕事上プラス女好きで人当たり良い紅丸だったが、こと、この草薙京に素っ気なくされたり、つれなくされたりすると一気に精神状態が真っ暗になる。
元々少し垂れた目尻を更に下げ、着物の袖を指先で弄り、帰らないでくれと蒼い目を潤ませていた。
強請られる事など、今に始まった事ではない。
しかし花を纏い、綺麗な着物に、恐ろしく整った顔に何時もと違うものを感じた京は、両手を腰に当て、盛大に溜息吐いて呆れていた。
因みに京も、紅丸に言わせればモテる顔してる癖に、すぐに威嚇の表情をするものだから女が逃げる、と宣うくらい、格好良いのである。
さておき。
まだ誕生日の祝い一つも言ってないなと、日頃つっけんどんな京だったが、今日ぐらいは甘えさせてやるかと紅丸に、部屋へ行っていろと階段を指差す。
部屋に追い払い、その間に帰ってしまうのか?と言う体を、言葉無くする紅丸の耳朶を引っ張り、言うことを聞けと命令した。
 
「良いか、部屋から出てくんなよ! ちょっと預けたもん、取ってくる」
 
「あ、うん……判った……」
 
何て面、するんだかと苦笑いして、帯の巻かれた腹を手の甲でトントンと叩き、すぐ行くからと言い聞かせて京は、キッチンへ再び戻って行った。
 
 
──コンコン、コン。
勝手知ったる二階堂家の、紅丸の部屋の前、京は扉をノックして開かれるのを待つ。
中で暴れているのか、ドタバタとしている様が手に取るように判る音と、慌てて上擦った声で中から返事をした紅丸は、扉を少し開き顔を覗かせた。
 
「何やってんだ?」
 
「ごめん……京がなかなか部屋に来なくて……いてっ!!」
 
帰らないと言っただろう!!と京は、信用ならないのかと怒り心頭で、黒目をつり上げている。
その表情に萎縮する紅丸を殴り、しっかりしろと更に怒って見せていた。
本当に。
この色男は、何をそこまで怯えるのだろうか。
それは自分にだけだと知っている京は、綺麗にセットし花を添えられた金髪を撫で、紅丸を押しのけ部屋へ入った。
 
「ごめん……」
 
「もう謝んな。ほら皺にならないように気を付けて、椅子に座れよ」
 
「京みたいに着物、慣れてないから……ありがとう」
 
「確かに。少し崩れてる、ちょっと立て……良し、直った。またこれから下、行くんだろう?」
 
「この着物見せたら、最後。毎年の事だから開いたけど、今年は京が目の前に居てくれる確証あったら、しなかったのになぁ」
 
「はぁ? なんだそれ!?」
 
「だってさ、誕生日に惚れた人と一緒に居るの、良いじゃん」
 
「何だかんだ言って誰かさん、しょっちゅう俺に絡んで邪魔しに来て、鬱陶しいんだけど?」
 
──絡みたくなるじゃん、惚れてんだから。
紅丸の着物を整えてやり、着崩れないように椅子へ腰掛けさせた京は、萎れている癖に饒舌でいる男の頬に、持ってきた物を押し当てた。
冷たいっ!?と蒼い目を丸くして驚き、ぽかんと開いた口内へ、小さな木製のスプーンで掬ったそれを、差し入れる。
それは、京が持ってきた紅丸への誕生日プレゼント──コンビニエンスストアで買った紙カップ入りの、何の変哲もないバニラアイスクリームだった。
京の部屋や紅丸のマンションで良く食べる、二人が美味しいと気に入っているもの。
階下では豪華で煌びやかな世界が広がっているのに、この部屋はシンプルで安価な、二人だけの甘くて優しい世界が出来上がる。
 
「美味いか? もっと食う?」
 
「ん……冷たくて美味しい、いつもの味。京が食べさせてくれるなら、もっと食べたい」
 
「行かなくて、良いのかよ?」
 
「意地悪言うなよ、自分で誘ってる癖に……でも、待ってるって約束してくれるなら、行こうかなぁ」
 
「バカが……」
 
椅子へ腰掛けている紅丸が開く口へ、正面に立つ京は雛鳥に餌を与えるが如く、掬ったアイスクリームを差し入れ、食べさせていた。
結局、ひとつ食べ終わった頃に重い腰を上げた紅丸は、プレゼントありがとう、行ってくると言う。
そして我が儘聞いてくれた京を、皆に見付からないように裏門から帰えそうとしたが、不損にして尊大に椅子へ腰掛けた。
 
「あれ? 見送りに……」
 
「いらねぇ。待っててやるから、さっさと下、行ってこい」
 
「──あ、あぁ!!」
 
京の待っているの言葉に、招待客が絶対に見ること無い華やかな笑顔をして、行ってくると部屋を出て行った。
紅丸を見送り、大きく息を吐いた京は、半分溶けているだろう未開封のアイスクリームを、照れで熱くなった頬へ当て、冷やしていた。
 
 
20190607
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
今日俺は、桜井さんの年齢にひとつだけ近くなる。
昔は、この歳の差が嫌で嫌で仕方なかった。
後輩の俺は、どんどん先に進んでしまう背中に追い付けず、悲しく悔しかった。先輩は振り返り待ってくれるけれど、伸ばした手は届かなかった。
しかし今は、直ぐ横にその背中が在って、手を伸ばせば触れる事が出来る。
年齢の差は縮まらなくとも、桜井さんと俺の距離は無くなった。


「先生、誕生日なんだ~! おめでとう! ねぇねぇ、彼女にお祝いとかして貰うの?」


「なっ、何、言ってるんだっ! こうして練習を見たり、君達が帰った後も色々しなきゃいけない事があるんだ。それに彼女なんて居ないよっ!」


「えーっ、面白くないなぁ……成瀬先生の浮いた話とか、聞いてみたいのに。残念」


「残念とか言わない。ほらほら皆、走る! 上南名物、パス&ラン、行けーっ!」


生徒達にからかわれて、とは語弊があるだろうけど、知りたい気持ちは何となく判る。
元々俺は、此処の生徒だったしバスケットボール部にも居た。都立高校でインターハイに出場して、負けてしまったけれど高校一の学校とも戦えた。その頃の写真が学校に飾られてあり、生徒達に当時の話を聞かれる事もある。
戦った記憶を語れば熱くなってしまうけれど、他はてんで無いものだから、隠してるだろうと根掘り葉掘り聞かれた。
そして今も無いのかと、無ければ無いで年齢的に心配してくれているのだろう……話のネタついでに、きっと。


「さすがに言えないよなぁ……まさか隣に写っている人と今、一緒に住んでます────なんてね」


体育館に響く生徒達の靴音を耳に俺は、パンツのポケットに手を突っ込み、部屋の鍵を握り締めた。

この手、離さないで。
20160619

純カレより。
まっさか先生でキター!でしたから。
絶対に、絶対に、桜井さんのバックアップあっただろう、成瀬!って思い込んでます、痛いくらいに(苦笑)

成瀬先生は、相変わらずバスケットボールに熱く、生徒達にいじられながらも指導してるんだろうなぁ~と思っています。


桜井さんは、病院で先生やってるよね、よね!と、これまた痛いくらいに思い込んでます(苦笑)


駄文、お付き合いありがとうございました!
成瀬の誕生日祝いでした☆






最近、携帯電話の調子が悪かった所為と、成瀬が新しくスマートフォンへ移行したのを期に桜井も、同じ様に機種の交換をした。
しかし、今までのようにボタンを押さえての入力ではないスマートフォンは、なかなかと慣れられる代物ではなかった。手指の大きな桜井は、つい違う文字まで押してしまい苦労していた。
しかし、インターネットをするには大変便利で、その辺りの活用頻度は以前の携帯電話よりも高くなった。殆どパソコンと変わらない性能に満足しているのだが、やはり文字の入力には少し不便が生じている。
文字盤を叩くだけではなく、慣れてくれば画面に添えた指を滑らせて入力する『フリック』と言う方法もあると成瀬は話す。難しいなら専用のキーボードもあると言う。
だが、メールやインターネットの検索の為に、逐一そのキーボードを繋ぐ作業が手間で面倒だ。
桜井は日々、スマートフォンの画面と睨み合い、早く慣れられるように格闘していた。





長時間端末に触れてはいないが、毎日の積み重ねが実ってきたか、最初に比べれば文字入力の早さは成長した。メールの作成も、それに比例して時間短縮出来るようになった。
いくらか使い慣れ早くなったとは言うものの、毎回苦労させられている桜井だった。


特定の着信音が流れてくる端末機を取り上げた桜井は、受信したメールを開いて目を通す。
送り主は、この内容を入力するのにどれ程の時間を要したのかと思うくらい、事細かに今日の出来事を綴っている。
読んでいて、今は離れてしまった部活動の事や、彼の思いや悩みが痛いほどに感じられた。
メールの文章では上手く伝わらない部分もあり、この手の返答は直接会って話したいのが山々だった。しかし、相手は桜井の事を気遣い『いつでも良いので』と、文末に一言添えられていた。


ーーーーさて、と。
成瀬からのメールに要点を纏めて綴り、伝えたい事がきちんと届くか不安だった桜井は、何かあったら電話をして欲しいと付け加え送信した。
文書を考えながら文字入力と格闘すること、数十分。時間の掛かりすぎだろうと思うが、これでもスピードは精一杯の桜井だった。多きな身体を少し折り曲げ、画面との闘いに疲れたか眼鏡を外し、目頭の辺りを指で押さえて軽くマッサージする。小さくしていた身体を元に戻して、両手を天井に付くくらいに伸ばしてやり、声を溢して更にぐん、と伸び上がる。息を吐いて身体の力抜き、両肩を揉みながら風呂へでも行こうとした時、また先程と同じ着信音が鳴り響いた。
苦労して打ち込んだメールへの返事だと思うが、彼はその苦労も知らず打ち返してきた。
部屋から出ようとしていた身体を捻り、室内にある端末機を恨めしそうに睨む。溜め息を吐いてしまうが、可愛い彼の役に立てればとメール画面を開いた瞬間、桜井は通話ボタンを押していた。



持っていた端末機が突然、鳴り出した事に驚いている向こう側の彼へ、用件だけを一方的に話した桜井は、すっきりとした表情をして階下へと降りていくのだった。


「明日、部室へ迎に行くから、会って話そう。その方が早いのと……成瀬の顔も見れるからな」





携帯端末最新事情
20140202




私です(笑)
もうね1ヶ月経つんですけど…ヨチヨチ歩きです。
これくらいの小話でも、考えながらだけど二時間はかかるぞよ…


成瀬側の携帯端末事情も、書きたいです…
奴は新しいもの好き(コミックスの秋葉原の下り)みたいだから、直ぐに慣れちゃうんだろうな…と思うんです。
以外とこーいう繊細系?、桜井さんザッパそうかも…(ゴメン、ごめん、ごめんなさーい!!)



そんなこんなで、もろ桜岡反映していた小話でした(笑)



しかし、固有商品名等は、どう表現するのか難しいです…最初にスマートフォンと言ってますご、悩んで途中から端末にしました…
スマートフォンでもよいかな、とは思ったんですが…悩める部分です 。




「美味しいね~、暖まる!!」

手袋をした両手で包み握った紙カップに口をつけた成瀬は、湯気のたつ珈琲を一口飲み込んで言う。体内の温度と外気温の差が少し大きいのか、真っ白な息を吐いていた。

「にしてもお前、やたら慣れていたな」

「何が?」

「これ作るの」

「ああ、珈琲ね。何時も桜い……」

「わーった。のろけるな、バカ」

「なっ、なんだよ、それ!?別にのろけるとかじゃないし、ただ桜井さんが何時も作ってくれるのを見て、覚えてただけだよ!!」

……それを世間では『のろけ』って言うんだよ!!
言葉をグッ、と飲み込んだ澤村は、同じく手にした紙カップの中身を口に含む。すると、今まで経験したことの無い甘い味をしたものが喉を通って行く。嫌みの無い甘さで驚いた澤村は、目を丸くして成瀬を見る。

「少し控えめにしたんだけど、どう?」

「悪くねぇ。以外と甘いのも……美味いんだな」

珈琲を飲むと言えば、味を変えないブラックを好む澤村だったが、今日は成瀬の作った甘い味をしたもの。
まんざらでもない澤村の顔を見た成瀬は、『暖まって、優しくなれるんだよね~』と自信作の珈琲をまた口に含んだ。



***



最近、安価で暖かく美味しい珈琲が飲めるのは、懐具合の薄い学生には有り難いものだ。
しかも、 町中にある大抵のコンビニエンスストアで買えるのが、また有り難い。
帰宅中、体が冷えてきたからと、制服のポケットに手を突っ込み、小銭の種類を確認した澤村と成瀬は、顔を見合せて頷く。そして、コンビニエンスストアの自動ドアを潜り、暖かな店内へ入って行く。
レジで金を払い、代わりに紙カップを貰った二人は、脇に備え付けられている珈琲メーカーから液体を注ぎ込む。セルフサービスなので、そのまま飲むも良し、ミルクや砂糖で味を整えるも良しだった。
澤村は、何時も通りに珈琲を注ぎ込むとプラスチック製の蓋をして、店から出ようとしていたが、珈琲メーカーのところでもたもたしている成瀬が自動ドアの硝子に映る。
何時もの事だが、早くしろと言う体をして澤村は近付き、成瀬の手元を覗き込む。他に珈琲を買う客に出会さなく、迷惑にならずに良かったと店内を見回すが、何時来るやも知れないので肘で小突いて促す。

「もう少しだから……」

「適当でも、お前の味覚なら判んねぇだろ」

「そんなことないよ!!ちょっとそれ、貸して!!」

「てめっ!!もし不味かったら金、払えよ!!」

「ぜーったいに、美味しいって言わせるから!!」

失礼な言い種に成瀬は、澤村の手から珈琲が入った紙カップを奪い取り、蓋を開けてあれやこれやと投入して行く。貴重な資源で買った珈琲に色々悪戯されている様を澤村は、成瀬に不味くなったら責任取れと文句を浴びせていた。
そうこうしている時、新しい客がコンビニエンスストアに入って来ると、直ぐ様レジで珈琲の紙カップを受け取っていた。それに気付いた澤村と成瀬は、仕上がった珈琲を手に店を慌てて出て行った。



***



「たまには……これも、あり、だな」
成瀬と別れた澤村は、まだ紙カップに半分くらい残っている甘い珈琲を飲みながら、のんびりと帰り道を歩いていた。
飲み慣れない所為で口するペースが遅いのと、外気温に晒されている紙カップも相まって、中の液体から徐々に暖かさが失われて行く。
残りも僅かになり、冷えてきた珈琲を一気に飲み干そうとした澤村は、道の前方に見慣れた背中が在るのに気付く。
一瞬にして胸が弾んでしまい、深呼吸して落ち着かせようとする。しかし上手く出来なかった澤村は、その背中目掛けて猛然と駆けて行き誤魔化す。

「かっ、かさっ……はり……っ!!」

「な……何かあったのか、澤村!?」

息切らせてやって来た澤村を見た、『かさはり』と呼ばれた人物は、何かあったのかと動揺して声が揺れる。

「あんたの背中見えたから……これ、やるよ!!」

「お……おいっ、俺は珈琲は飲まんぞっ!」

「一度、騙されたと思って飲んでみな!!案外、行けるぜ!!」

驚いて固まっている人物の手を無理やり掴み、自らが持っていた紙カップを握らせた。手袋をしていないその手は冷たく、握らせた紙カップの上から澤村は手を添えた。

「今度は、俺がちゃんと美味い珈琲……飲ませるから……今日はこれで我慢してくれっ!!」

「……んっ!?」

手を握られただけでも顔を赤くしている人物は、澤村の少し潤んだ眼で真摯に見詰められ、更に赤くなる。持たされた紙カップごと腕を引かれ、危ない、と言おうとした人物の唇を澤村は掠め取り、そのまま走って一人逃げて行った。
走り去る背中を追い掛けられず、緊張で喉は乾きを訴える。
呆然としていた人物は、握らされた紙カップに口を付けた。
おそらく初めて飲むでだろう甘い甘い珈琲で、渇ききった喉を潤すのだった。





sweet  coffee
20140119





小林さん、誕生日おめでとうございます!!
これだけ打つのに二時間以上かかってるって、恐るべしスマホ!!
滑ってるのと、叩きすぎと、押し間違い。
なかなか慣れるまでは長がそうだわ。
フリックでしたっけ?できないわ~(^-^ゞ



そんなわけで、コバ誕♪
コバースデーとも言う♪


やっぱり逆に見えるんだよなぁ……でもコバサワ!!
成瀬の作った珈琲だけど、キスと間接キス付けたから、良いよね(笑)


甘いものは、癒し。
コンビニ珈琲にも、私は癒されました。
仕事キツいとき、寒さが辛いとき、ホントに癒されました。
珈琲チェーンのは甘いのダイレクトに注文しますが、コンビニやファストフード店はブラック派な桜岡でさした。



少しでも見てくださった方も、暖まって頂ければ幸いです。
駄文、お付き合いのほど、ありがとうございました☆



小林さん、誕生日おめでとうございます!!
あなたにも澤村しか贈呈しません(笑)
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