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身体の奥まで深く染み入る貴方の声で、
私の名を永遠に囁いて下さい。





澤村正博は、小林純直をアパートへ招いていた。
『水と油』と称されている間柄と言うのに、彼を招いた理由が勿論、あったからだ。
一月二十日。
これは、目の前で仏頂面している小林の誕生日の前日である。
澤村は日頃、色々な……本当に色々な意味で世話になっている小林の誕生日を、祝いたいと密かに思っていた。
しかし根が捻くれている澤村には、素直に彼の誕生日を祝う術を知らずにいた。
そこで成瀬を半ば騙し、他の面々を集めさせた。
ただし、それが小林の誕生日を祝うものだとは告げず、新年会と言うオブラートに包んで。
場所と料理の腕前は披露するからと澤村は、食材や人集めは成瀬に任せ、留めに『何としても小林を引っ張って来い』と注文を付けた。
どこか理不尽を感じた成瀬は渋ったが、桜井も引っ張って来いと言ってやると、犬ころの様にはしゃいで澤村の手足となって働いた。



――――あいつが単純でホント良かった。
成瀬を手の平の上で良いように扱い、目的を達成させた。
可愛い子に呼ばれては……呼ばれなくとも成瀬の姿があればやって来る桜井は、部屋に揃った面子を見、美味しいのは自分だけじゃないか?等と嫌味を言われた。しかし、口の減らない澤村は、お互い様だと先輩を突いたのだった。



***



「騒がしくして悪かった」

「は?! あぁ……ここ、ちょっとぐらいじゃ迷惑、かかんねぇぜ」

周りがより以上に騒がしいから、心配はしなくて良い。
澤村は、部屋に残っている小林の声に答える。
そうか、と小さな台所に向かって水音をさせている澤村の背中へ一声、投げ返すと黙々と片付けの手を動かしていた。



集まった人間の、余りの騒ぎ様に小林一人が注意して回っていたが、誰ひとりとして聞く耳持たなかった。
出された料理の美味さに争奪戦となり、成瀬筆頭に食い意地の張った者達は、弱肉強食の世界へと突入する。静かに、所作美しく食事を嗜む小林は耐え切れずに怒鳴るも、一番の年長者・桜井に捕らえられ、話相手をさせられていた。その様子を見た澤村は、桜井の視界へ入るように親指を立て、無言の礼を送っのは言うまでも無かった。

深夜近くまでどんちゃん騒ぎをしていた面々は、桜井が発した電車が無くなるとの声に、蜘蛛の子散らすように帰って行った。
成瀬は、片付けに残ろうとしたが……最後まで良い仕事をしてくれる桜井が、引っ張り連れ帰った。
ところが。
帰りそびれたか、周りに圧倒されたか小林だけがポツン、と澤村の部屋に取り残されていた。

「自転車で来ているから、片付けくらいはして帰る」

言葉と共に身体を動かし始めた小林を止めることは出来ず、澤村は有り難く甘えることにする。
台所へと汚れた食器を運び、フローリングに散った物を集めていた。

(真面目なんだか、貧乏クジなんだか……)

小林の様子を、横目で伺いながら澤村はポツリ、言葉を零す。
しかし、この部屋で二人になる事を仕組んだのは、何を隠そう澤村だった。
本当の誕生日は明日なのだが、当日に小林を呼ぶと周りに意図が見えてしまうかも知れない。ましてや黒幕の桜井や、妙な所で感の良い成瀬に至っては、口を滑らせかねない。そこで澤村は、この手段を取ったのだ。




「終わったぜ。悪ぃな、手伝わせて」

テーブルなんて洒落た物はない澤村の部屋。
フローリングの上に直接座っている小林の前へ、煎れたての茶を差し出した。
夜中になり、少し冷えた室内の温度が、茶の湯気で仄かに上がる。
礼を言った小林は、澤村の愛の篭ったそれを口にして、身体の芯を温めた。

「っと。俺も一服」

同じ様に湯呑みを手にした澤村は、小林の横に腰を下ろしてそれに口を付ける。一服、の単語に肩を震わせ、煙草に手を出すのでは無いかと眉間に皺を寄せる。小林は、澤村を睨みつけたがお門違いで、間違いを隠すように茶を啜り続けるのだった。
その様に、彼の思ったことが見えたか澤村は、くすり、と喉を小さく鳴らせて淡く微笑んだ。

「おっと、忘れるトコだったぜ。あんた、まだ腹に余裕あるか?」

散々食べ尽くしたのに何を思っているんだろうと小林は、まだ笑っている澤村をしげしげと見詰める。
どうだ、と無言の問い掛けに、余裕があると頷いて見せると澤村は、一層に笑みを濃くして立ち上がった。
一挙手一投足を座ったまま眺めていると突然、窓を開いて澤村は身体を外に乗り出した。
暖房の無いこの部屋に、冬の夜風は厳しくて驚いた小林は、止めさせようと立ち上がったが、フローリングに足を掬われひっくり返ってしまう。

「何、やってんだ?!」

「お、お前がだなっ……」
――――いきなり窓を開けるからだ!
そう言いたかったのだが、顔面を強打してしまった小林は、打った箇所を押さえて痛みと声を耐える。
何時もの澤村ならば、茶化す様に大笑いしただろう。しかし、呆気には取られたが笑う事などせず、床に丸まっている小林を起こしてやる。すると、面目無いと大きな身体を小さくしてしまった。

「外にしか隠す場所、無くてよ……これ」

俯いて正座している小林の、落とした視線に入るように澤村は、小さな皿に乗せてある物を置いた。
それは、綺麗な翡翠色をした小振りなケーキだった。
甘い洋菓子はきっと苦手だろうと、クリームは極力押さえ抹茶を主体に栗や小豆を添えた一口サイズの物が数個、乗せられていた。

「あんたの為だけに……つっ!!」

――――作ったんだぜ。
そう続くはずだった言葉を遮られた澤村の視界は、何時の間にか天井の明かりと白い壁を映していた。
フローリングで頭を打ち付けた痛さよりも、小林に強く強く両の腕で抱き締められている事が驚きの対象になる。
唯、がむしゃらに身体を抱いている小林へ、ちゃんとこの部屋に呼んだ事とケーキの意図が通じたのだろう。
驚いていた澤村は天井を見詰めたまま、上からのしかかっている小林の背へ指先を立てて掻き抱く。

「……な、名前」

「……名前?」

「そう……あんたの声で名前、呼んでくれよ」

手の平に感じる温度が一瞬、上がったように感じた小林は、恥ずかしがっているであろう腕の中に在る人の顔は見ずに、薄紅に染まった頬に自身の唇を寄せる。

「ありがとう、正博」

肌と肌を触れ合わせると、彼だけにしか届かない声色で、その名を囁いたのだった。



その時ちょうど……午前零時を時計の針が指していた。





名前を呼んで / 20110121






ゴーインに「お題目」に持って行ったので、空中崩壊気味ですみません!!

改めて小林純直……誕生日おめでとう!!


この人ら、ホントに何時までたっても上手に動かせなくて、ほとほと困ります。苦笑。
確か二年前のコバ誕でも、名前を呼ばせるネタがあったと思いますが、今回は…可愛い人(可愛いか、澤村?!←絞め殺されるぞ、桜岡)にねだられて…っつ事で、見逃してやってください。滝汗。



平刻以来ずっとチマチマ、チマチマ~しておりましたが、ようやく終わりました。

相変わらずド下手な小話ですが、少しでも楽しんで頂けましたら幸です。


改めて……
誕生日おめでとう!
澤村献上しますので、随意に……小林先輩♪←固まって手だし出来ないか、男前スイッチOnして……(こらーっ!!)
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