忍者ブログ
色々と語っております・・・
[1048]  [1047]  [1046]  [1045]  [1044]  [1043]  [1042
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

『夢の終わり、現の始まり』
──なんか目の前に、見慣れた奴がいるんですけど!?
唯、その見慣れた奴は顔だけで、首から下は絶対に『有り得ない姿』なのである。
「正博様、朝食の準備が整いました。お目覚めを」
「は? あの……小林純直さんですよね!?」
そう聞かざるを得ない状況なのは、ここが正博こと、澤村正博の住むパチンコ屋の二階にあるワンルーム。合い鍵は誰かに渡した記憶もない、今、床へ転がっているひとつのみ。
寝る前に鍵は掛けたし、窓から侵入するにもネオンサインが邪魔をして、無理だ。
「フルネームで呼ばなくとも、何時も通り『小林』と呼び捨て下さい」
「アンタ、今、どんな状況か判ってるのか?」
「状況?」
何時もと変わりなく、貴方に仕える執事だと小林は言い、跪いていた床から腰を上げて立つ。
その身のこなしは美しく、女ならば『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』と、あのお決まりの言葉がとても似合う立ち居振る舞いだ。
決して女の柔らかな美しさではない、男の張りのある凛々しい美しさ。
一つ上の先輩だが、とても同じ高校生とは思えないその姿。
周りからは侍だとか呼称されているが、この姿で日本刀なんて構えられたら、女でなくとも一瞬で惚れて堕ちるだろうと澤村は、小林の──今の今まで見たことのない、黒の燕尾服姿に目を疑い、そしてあまりの格好良さに頬が朱に染まっていた。
「今朝は、とてもおかしなことを仰る。私は正博様のお世話をする為に生まれ、そして命を賭して護る為に生きる──唯、それだけです」
「っつかさ、アンタ高校生だし、オレの先輩で、一緒にバスケットボールやってんじゃん!? それなの、にいきなり執事とか、意味わかん──ねっ!?」
何か怖い夢でも見られましたか?と、上着のスワロテイルを揺らめかせ、立ち上がった小林は再び跪く。
未だベッドの上で硬直し、顔と視線だけで燕尾服姿を追っている澤村を見上げ、仏頂面で有名な男はフワリと笑う。
(コイツ、ダレダ──ッ!!)
澤村の知る小林純直は、こんな笑い方をしたことがない。
何時も不器用に、片頬だけをひきつらせて笑う。
心底笑ってもぎこちないそれが澤村は好きなのに、このたらし込むような笑いに吐き気を覚える。
「大丈夫ですか? 酷い汗をかかれています……浴室の準備は整っておりますので、お使い下さいませ。その間に、朝食の準備を致します」
(オレハ、コンナ、キモチノワルイオトコニ、ホレタオボエハ、ナイッ!!)
澤村は、小林の姿に得も言われぬ恐怖を感じ、脂汗が全身から吹き出す。額を流れ落ちるそれを、断り無く生暖かい手で拭われ、今まで硬直していたのが嘘のような、機敏な動きで燕尾服の男と距離をとり、ベッドの端へと逃げる。
それなのに男は、執事だと言うくせに手を伸ばし、澤村にまた触れようとしてきた。
ちら、と切れ長の目をそらせば、外からは侵入できない窓が、漆黒の水晶体に映り込む。
「まさひろさまっ、なにをっ!!」
「オレの知っている小林純直はなぁ、仏頂面でカサハリ浪人で、むっつりスケベでネクラでよ──面と向かっているときは、オレに断り無く……身体に触ったことなんてねぇんだよっ!!」
そう怒鳴った澤村は、たかだか二階だが一歩間違えれば怪我だよな、バスケ出来なくなるなぁ──と頭の端に言葉が過る中、その窓から飛び降りた。
「──が、っ!?」
「どうした? 魘されてたが……ああ、酷い汗だ。触っても大丈夫か?」
飛び降りた記憶は、ある。
しかし、何でそんな夢になったのか、判らない。
皮膚が張り裂けんばかりに啼く心臓と、荒れた呼吸を整えなければと澤村は、自身を抱き締め夢の行方を探る。しかし、飛び降りた場所がここからだと言うことしか記憶にない。
「澤村……」
「あ──ゴメン、カサハリ。大丈夫、触っても……」
「すまん。あとこれ、飲め」
「ありがとう……オレ、なんか……」
目の前にいる小林は断りを入れ、澤村の額から流れ落ちる汗を拭い、氷水の入ったグラスを手渡す。すると身体から出て行った水分を補うように一気に煽り、安堵の息を吐いていた。
握り締めていると力加減が出来ず、割ってしまうかも知れないとそれを取り、床へ跪いて澤村の様子を見上げている。
心配しているのだと、少し目尻の下がった綺麗な翡翠の目で、言葉なく見詰めていた。
とても心配してくれている、本当に断り無く触れない小林に、自分の知っている『小林純直』だと嬉しくなる。
「何かさ、変な夢を見たんだけど、覚えてなくてさ。しかも誕生日にだぜ? 目覚めた時にアンタの顔があって、凄く安心した……居てくれて、ありがとう」
そう言った澤村は、汗かいてるのに悪いなぁと思いながら小林に抱き付き、抱き締めて欲しいと強請る。
風呂も食事も出来ていると言いながら小林は、強請られた通りに澤村の身体をしっかりと抱き、誕生日おめでとうと耳元で囁いた。 
20190831
PR
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール
性別:
非公開
フリーエリア
バーコード
ブログ内検索
P R
カウンター

Copyright © らぶふら日記 All Rights Reserved.
Material & Template by Inori
忍者ブログ [PR]