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特に絵に興味がある訳じゃないが、ふいに描きたくなって今に至る。
美術室には、一人きりの俺がいて、真っ白なカンバスと向き合っている。
黒炭の棒を手に、少しずつ少しずつ描き進めて行く。
頭に浮かんだ光景を指先に伝え、丁寧に白のカンバスへ輪郭の黒を付ける。
描きながら、思い浮かべる。
しなる身体、五指の動き、駆ける足。
ゴールを狙う真剣な眼差し、仏頂面だけど時には照れ笑いする面立ち。

「……やっべ」

もう少しで、そのままを描いてしまうところだった。
指で黒炭をカンバスに馴染ませ、跡を薄くして上から新たな線を加える。
ある程度描き上がり、色を挿して行く。
極力、使う色を抑えてシンプルでかつ、『らしさ』を現す。
油の匂いが部屋にひろがり、これからバイトに行く身に染み付いてしまうだろうが、気にせず仕上げて行く。

「……おっし、上がり!」

すっかり日も傾き、オレンジ色の夕陽が差し込んでくる美術室で俺は、一枚の絵を完成させた。
まだ油が乾いていないから、暫くはこの部屋に置いておかなくてはならないが、なかなかの出来映えに満足している。
オレンジに飲み込まれている絵だが、本当は淡く清んだ青空を、雲の切れ間から降り注ぐ光の帯に向かって、天使が翔ている構図になっている。
表情はわざと描かず、背中に生える羽も片翼にしてある。
いつか、これに対なすものが描ければとの願いも込めて。

「澤村ー、こんなとこに居たんだ。フープ寄って帰ろ?」

「……俺は、お前のお守りじゃねえっつーの。桜井の旦那はどうしたんだ?」

「今日は予備校。綺麗な絵だね~澤村が描いたの?」

「ったりめーだ。俺しか居ねぇだろ、此処によ」

「うん、そだね……あれ?この天使、誰かに……」

「はいはいはい~、帰ろうな、成瀬。フープ行くんだろ?」

「ちょっ、ちょっとーっ!!もう少し見せてよーっ!!」

今日は部活も休みで、だからこそ此処で一人、絵を描いていたのに……お守りの居ない成瀬に邪魔されてしまった。
おまけに、こいつは変に勘が良いもんだから、たちが悪い。
これ以上、此処に居たくなくて俺は、見たがる成瀬から絵に布を被せて隠し、そのまま引っ張って美術室を後にした。




片翼の天使は、暫くの眠りに付く。





『え』
20110514




油絵の手法も、なんも知らずに適当にやっちまいました…すみません。
澤村の絵心も、取って付けた感ありありですが、目をつぶって頂ければ幸いです。

ちょいと珍しく?澤村妄想系のお話でした。

天使のモデル?
そんなの…彼に決まってるじゃありませんか(笑)

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