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もうすぐ試合だと言うのに澤村は、大事な武器の左手を捻挫してしまった。
たいした痛みではないのだが、スリーポイントシューターが不在となれば得点力が落ちてしまう。
今川に、試合までに絶対に治さなければペナルティーを課すと脅され、普段は言うことを聞かない澤村も大人しくしていた。
そのペナルティーが問題で、苦手で嫌いで大好きな小林とのデートをしろ、と言うものだった。

「伏兵・今ちゃんにしてやられた」

左手をがっちり固定された澤村は、まだ自由の利く右手で頬杖ついて愚痴る。
すると、目の前で喧しくしていた成瀬に、右手をつつかれた。

「ほら、右手まで怪我したらどうするだよっ!!大人しくしてなよ~」

「うっせぇんだよっ!!お前はいちいちっ!!」

「そんな事、言うんだったら……いっそ治らなくて小林さんとデートすりゃ良いじゃん」

「それが嫌だから、仕方なしにお前に世話させてんだろうがよっ!!」

「じゃ、ちょっとは俺の言うこと、聞いてよ……」

「言うこと聞いてるだろうがっ!!飯だってお前に食わせて貰ってよ!!」

「なら、『あーん』って言ったら、口開けてよ。食べ物落としちゃうんだから」

「お前の箸使いが悪いだけだろっ!!」

「……うっ」

世話を焼かせている成瀬が余りにも鈍すぎて、澤村の苛々が沸点を迎える一歩手前まで来ていた。
こんな姿を教室で曝すのは恥ずかしいからと、部室まで昼食をわざわざ食べに移動しに来ている二人。
授業は仕方ないにしろ、極力痛めた左手を使わせないように同じクラスの成瀬に面倒見させていても、当の成瀬がこれではいっそ右手で自力で生活しても良いのだが、鬼の今川の目が光っている内は、言う事を聞かざるを得なかった。

「もう少しなんだから、我慢してよ」

「……かなり我慢してますよ、成瀬くん」

もう眉間に寄せた皺の深いこと、深いこと。
澤村の我慢の限界が、直ぐそこまで迫っているのがひしひしと伝わってくる。
成瀬も、これ以上刺激しないように黙って甲斐甲斐しく世話を焼くのだった。





が。
やっぱり期待を裏切らない成瀬は、その後……
澤村を怒らせてしまい、固定されていた左手を見事に食らったのだった。








「澤村、ペナルティー分かってるね?」

「い……今川先輩、これは成瀬が……」

「問答無用!!誰が最初に怪我したか分かってる?!」

「お、おいっ今川!!俺の意思はどうなるんだ?!」

「そんなの澤村に言いなよ。あれだけ口酸っぱくして言っていたのに!!だから、小林をペナルティーに使ったのに……」

ーーーーそれ口実に、デートしたかったの?!

成瀬を殴った澤村の、左手のテーピングは緩んでしまい、今川はきつく巻き直しながら説教をするのだった。





『あーん』

20120508





暫く続きます。
多分、今、めちゃくちゃハレビモードで…
50音順に小話書いてみよう、とか昨日風呂場でふと、思い立ってみた(笑)


ちょっとした話なんで、深い事とか全然考えてません…
ヒトコマ漫画程度に思っていただければ幸いです。








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