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薄く細くなる月を見上げた成瀬は、哀しそうな表情をした。
今日は月食があると桜井に教えられ、見たことがなかった成瀬は楽しみにしていた。
欠けて行く月は神秘的なものだったが、それだけでは無い、何処か儚くあるものにも感じる。




桜井の家に呼ばれ、二人で眺めていた月を、今は成瀬だけが庭に佇み、見詰めていた。
つい先程まで隣に居た人は、色々準備や用意があるからと家の中で動き回っている。
今夜世話になるのは自分だから手伝うと主張したが聞き入れては貰えず、置き去りにされてしまった。
風呂も食事も何もかも、桜井が世話してくれたお陰で、こうして成瀬は一人ぼっちになってしまっていた。

「……何だか寂しくなってきた、本当に」

桜井家で飼われている犬のジョンも、小屋に潜ってしまい眠っている。
辺りの電灯で庭は仄暗くはあるが、それでも一人で此処に事が辛くなってきた。
闇は止まることを知らずに月を侵食し続け、もうすぐ全ての光を失おうとしている。
見ている事が躊躇われ顔を下げた時、ふわりと優しい力で成瀬は肩を抱かれた。

「ほら、もうすぐ新しい月が生まれる」

――――顔を上げて。
風呂上がりの桜井は、まだ少し熱持った身体を成瀬へ寄せ、穏やかな口調で囁く。それに呼応した成瀬は顔を上げ、闇に沈んだ月の在処を探す。
目を凝らし、先程まで見詰めていた辺りを再び見てみると……

「あ!!」

真っ暗闇でいた空に、月がゆっくりと顔を現して行く。
最初は細く鋭く、そして丸く優しい光が放たれる。
その様子を見入る成瀬も、寂しそうな顔から何時も表情へと還って来た。

「一人にして悪かった」

「……もう平気です。こうしてくれているから……」

天空へと還って来た月を、成瀬と桜井は寄り添いながら見詰め続けた。






「てんくう」
20120605



月食で二組、書きました。
光が隠れて行く様は神秘でもあり、物悲しくもあるかな、と私の感想です。
こないだの日食なんて、地下鉄だったから見れなくて、地下から出てきたら薄暗かったです。
ああ、日食が明けてるんだ…と。




そんなこんなで、少し寂しいお話でございましたが、最後はhappyに出来るだけしたい桜岡でした。




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