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『今日は、月食があるんだって!』

晴れてて良かった、とは成瀬の言葉。
どうせ黒幕と一緒に見に行くんだろう、とは澤村の言葉。
その言葉に素直な反応をするのが少し羨ましくて澤村は、一発腹にパンチを食らわせた。
痛がり踞っている成瀬を放置して、部室を早々に退散して行った。





素直すぎて可愛らしくて――――ムカつく。
澤村が出来ないことをする成瀬が、羨ましいと思う反面、自分の持ち合わせていないものを強請るのは……らしくない、とも判っている。
大体、そんな素振り見せれば、小林は卒倒してしまうだろう。

「まぁ、それも見物って言えば、見物だよなぁ」

間延びした呟きをした澤村は、藍色に染め上がった夜空を見上げると、もう月食がじわりじわりと始まっていた。
月は丸みを失い始め、鋭利な刃の様に細くなっていた。
澤村に憧れを抱いている女子たちが見ると、きっと悲鳴が上がるだろう。
空を見上げると口が開いたままになる。
本当かと思いながら聞いていた事が、まさしく今の澤村である。
我ながら間抜けな面構えになっていると知りながら、徐々に薄くなって行く月の翳りに目を奪われていた。

「丸いのがアイツ等なら、細いのは……」

――――俺達かな。
満ち欠けをしている天上の月から目を離さぬまま澤村は、思わず笑みを零す。
少し暗がりの路地の入口で立ち止まり、月が見る間に細くなって行くのを眺めていると、急に腕を引かれ驚く。
大声が出そうになったが、その手の暖かさに覚えがあり、何があったのかと問う。

「お前も、あの月のように隠れてしまいそうで……怖かった」

言うなり、暖かい手を持つ人物は澤村の身体を引き寄せ、しっかりと抱き締めた。

(こんなカサハリも、悪くねぇな)

似合わないセンチメンタルを露にしている小林の腕に収まる澤村は、幸せそうな顔をして闇に隠れ行く月を眺めるのだった。



「つき」
20120605




昨日は月食だったそうですが、曇っていてまったく…うんともすんともない状態でした。
まぁ部分蝕やったみたいですが、前回の日食が見れなかったので、見れればなぁ~と思った次第。


丸い月と、細い月の感じだろうなぁ、とサクナルとコバサワを表してみました。



澤村は、どうも儚げな雰囲気が見えてしまうので、このような小話になりました。







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