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「隊長、此方に居らっしゃいましたか。探しましたよ」

「探すって……判っていた癖に嫌味か、全く」

米田より司令代行を言い付かった大神の指揮下に入り、この大帝国劇場内でも気配を消さず行動出来るようになった加山は、この場所が一番居心地が良いのか食堂に入り浸っていた。

「で」

「これを。隊長……顔の絞まりが無くなっています」

「すまんな。よし、何とか使えそうだ……お前、一言多い!」

「はいはい。そんな顔で言われても、痛くも痒くもありませんから。さっさと行って下さい」

手渡された刀を鞘から少しだけ引き抜き、刃の状態を確認する。
真ん中辺りで折れてしまった神刀・滅却の刃先を鍛え直し、良く短時間で此処まで戻してくれたと鍛冶師に感謝し、自分の代わりに走り回ってくれた隊員にも頭を下げる。加山が食堂を出て行こうと踵を返すと、その背中に頭を垂れて隊員は姿を隠した。


***



預かった刀を渡すついで支配人室に篭もっている大神の顔でも拝むかと加山は、屋根裏からではなく扉から堂々と会いに行く。しかし、常の行動で気配は消したままだった。
食堂を抜けて直ぐの所、支配人室の前で花組の六人が、やれそれと小声で話している。
声を掛けるか、扉を叩くか蹴破るか、眠っていてはと退散するか等々、様々な提案をする彼女達の声を加山は、常人には聞こえる筈のない距離に在りながら、一部始終盗み聞きしていた。
遠慮をしているような、そうでないような彼女達の様子に、喉の奥で声を殺して笑った。




「気になるのなら、遠慮なく入れば良いのですよ。大神は、貴女達の隊長なのですから」

「……か、加山隊長?! 何時から其処にいらっしゃったのですか!」

「扉を蹴破るか~って辺りくらいかな。ほら、なかなか纏まらなくて、マリアさんが困っていますよ」

そんなところまでしっかり見られていたのかとマリアは、頬に朱を落として両手でその火照りを隠す。
他の五人は、余りの驚きに悲鳴を上げると共に、盗み聞きに対する非難と、月組の真髄を見たと感動していた。紅蘭は、是非解体したいと両手を胸の前で組み、懇願している。
今、とても崖の淵に立たされているとは思えない花組の賑々しさに思わず加山は、先と違って声を出して笑う。その様子に、彼女達は一様に不謹慎だったと反省したが、こんな時だからこそ力も抜く必要があるのでは?と加山が問う。茶目っ気を出して片目を閉じ、一番年少のアイリスの頭を撫でながら、皆で入れば怖くないぞ……と言った瞬間、思い切り扉を蹴破った。

「おぉーい、大神ぃ~! 皆で遊びに来た……って居ないぞ?!」

カンナがやろうとし、すみれが阻止した事を易々とやってしまった加山に唖然とし、花組六人娘は扉の外で呆然と立ち尽くしていた。
一足先に支配人室に入った加山は、額に手を宛がい広くはないそこを見渡す。
大袈裟な体(てい)に彼女達は、くすくすと笑う。室内から手招きする加山に誘われ中に入ると、本当に居ないのだと少し淋しくて肩を落としていた。アイリスに至っては、泣きべそをかきそうになっていて、カンナが抱き上げあやしていた。

「あの馬鹿野郎は、何処へ行ったのやら……可愛い淑女達を残して。あ、俺が花組の隊長も兼任しちゃおっか……」

最後の言葉は、天井から落下してきたタライが、加山の頭に激突した音によって掻き消された。
これは月組隊員の、日頃の恨みを込めた応酬だった。
さほど痛くも無い癖に、痛い痛い痛いと連呼する加山に再度タライを投げ付けた。流石に二度目は食らうかと、素早く避けたが……避けた場所にも落ちてきて、見事に命中した。

「加山はん、最高? もうボケ過ぎやわ?」

「う~ありがたい言葉なんだけど……紅蘭さん、流石に二回食らうと痛いですよ」

「容赦ないんですね……月組の皆さん」

「うちの少尉には、出来ませんわね……」

「今度、避け方、教えてやろうか?」

「加山のお兄ちゃん……かわいそう……」

「本当に大丈夫ですか?」

「ますます花組の隊長になりたいなぁ~こんなに心配して貰えるなんて……打ちやっぱり羨まし過ぎるぞ、大神ぃ~?」

「……煩いぞ、加山」

何故か支配人室の外から声がして、加山筆頭に首を思い切り振り、そちらを見やる。
部屋に居ると思い込んでいた大神が、扉の向こう側でうんざりした顔をして加山を見ていた。
真っ先にアイリスが掛けて行き、大神に抱き付く。飛び込んできた彼女をしっかりと抱き止めると、謝罪の言葉を掛けながら小さな身体を抱えた。

「少尉、何処へ行ってらっしゃったのですか? わたくし達を心配させて……ただでは済まないですわよ」

「すまない……ちょっと調べものをしに行っていた。心配させてしまって、許して欲しい」

「またお一人で悩まれて居たのかと……」

「大丈夫だ、マリア。皆にきちんと、そう言う時は相談するから……ありがとう」

彼女達に迷惑かけたと大神は、恥ずかしそうに頭に手をやり、それを垂れた。
自分達の信ずる隊長の姿が見れたと喜び、一安心し胸を撫で下ろした面々は、今だけはこの穏やかな雰囲気にもう少し浸りたいと、皆でおやつでも食べようとカンナが提案する。

「そうしよう……帝国華撃団・花組及び、おまけの月組隊長も食堂へ集合!」

「大神ぃ~俺も入ってるのかー! 美しい彼女達の中に入れるなんて、幸せだなぁ~」

「入れないと煩いだろう。その前に、用件は何だ?」

舞い上がってすっかり忘れそうになっていた加山は、そうだと手に携えていた刀を大神に託す。それが何なのか、言わずもがな判った大神は、頷きしっかりと握り締めた。

「完全にはもう戻せないが、霊刀だから護身にはなるだろう。米田指令が戻られるまで、お前に預ける」

「……判った。そうだ、加山。お茶が終わったら、相手になってくれないか?」

すっ、と鞘から抜いた神刀滅却の刃先を、加山に向け打ち合えと目で語る。
士官学校の時以来だな、と加山も目で語り、了解との合図で片手を軽く挙げた。

「大神さん、加山さん、お茶が入りました」

さくらの呼ぶ声に二人は同時に返事をし、食堂へと向かうのだった。



束の間の、休息。
20150726





本来ならば緊迫した日々を過ごしてやまないのだろうけど、あえて息抜き?させてみました。
漫画版をベースにして書いてます……ちょっと6巻の予告のとこで、大神が書物の解読をしているところから、支配人室に引き篭もり……ネタになりました。

花組六人娘も、まんべんなく(アイリス贔屓な私なんで、アイリス一歩抜けてますが(^-^;)喋らせてみた感じです。

人数多くて大変やわ~と思うのでした。


加山との打ち合いは、またの機会に…


駄文ではございましたが、お付き合いの程、ありがとうございました。









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