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「少しだけ、涼しくなりましたね」

「朝夕少しはな。まだまだ昼間は暑いだろう?部活も大変だな」

「って、桜井さん……ついこの間まで一緒にボール、追い掛けていたじゃないですか~」

そうだな、と桜井は口元を拳で隠して、笑う。
ほんの少しだけ、真夏に比べれば過ごしやすくなった夕暮れの道を、大きな荷物を抱えた成瀬と、部活をしていた頃に比べると随分小さくなった鞄を持った桜井が歩いていた。
引退してしまった最上級生は、可愛くて仕方ない伸び盛りの後輩の、部活終わりを待っていた。
毎日のように顔を付き合わせていたのに、今は顔を見ない時間の方が増えてしまい、寂しさが心の隙間に出来てしまっている。自分が学校を卒業してしまえば、更に寂しさで心が膨らんでしまうのかと思った。
センチメンタルな性分で無いとを知っているが、こと、この後輩に対しては、どうも心が弱くなってしまうらしい。
拳で隠した笑いを消して、桜井は思い、耽る。

「どうかしましたか?まさか熱中症?!ボンヤリして大丈夫ですか!!」

「大丈夫、大丈夫。ちょっと考え事をしていただけだ」

「そっ……そうですか?!もし怠いとかあったら、直ぐに言ってくださいね!!」

素直で一途過ぎる成瀬の気遣いが、シャツから見えている腕を握る手のひらから伝わる。生温いだろう肌の感覚を気にすること無く、手のひらは離れて行くことは無かった。

「大丈夫、大丈夫。それほど柔には出来てないよ。だいたい、鍛えられたからな……部活で暑さには」

「……えと、心配もしてるんですけど……」

――――気持ち悪くなかったら、暫くこうしていて良いですか?
夕日に照らされているだけではない紅さを頬に挿して成瀬は、不意打ちを喰らって目を丸くする桜井の顔を、不安そうに見詰めていた。
腕を掴む手のひらは熱を帯び、徐々に指先へと力がかかる。桜井の腕にそれは食い込み、僅かながらに痛みが走る。

「気持ち悪いなんて思わない。寧ろ俺は嬉しいよ……こんなにも成瀬に想われていると、感じられて」

逃すまいとするその手に桜井は、自らの手のひらを重ね合わせて、成瀬の目を覗き込む。ふわり微笑めば、安心したのか指先から力を抜いて成瀬は、桜井へと微笑み返した。









「おらぁ、そこーっ!!公共の道の真ん中で、恥ずかしいことしてんじゃねぇよっ!!」


いい雰囲気のところを、突如降ってきた怒鳴り声に邪魔された桜井と成瀬は、歩いてきた道を振り返る。
すると、小林の運転する自転車の後ろから、澤村が叫んでいた。運転している耳元で怒鳴られているので、ハンドルを握りながら眉間に皺を寄せ声量を堪えていた。

「……お先です」

「俺たちだけで良かったな、目撃者。お熱いことで~」

桜井と成瀬を追い越し様に、自転車の二人は声をかけて行ってしまった。

「って言うか、澤村も美味しいじゃん。小林さんと……お熱いことで~」

「……だよな。澤村に使われてるわりには小林、顔に照れが出てるし」

お互い様だよな。
嵐のように過ぎていったた自転車を見送りながら
二人は、見詰めあって、囁きあって、笑いあった。




ふたり、と、フタリ
20130823






ちまちまと書いてみました。
サクナルさんたちよりも、こんな澤村が大好きです(笑)





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