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人は、望みを多く抱え。
人は、それを目標にする。

叶えば力となり――――倖せに変わる。








「お前ってさ、なんか願い事とか、望み……ってあんのか?」

モップを手に、広い体育館を掃除している澤村は、同じくモップを手に掃除している成瀬に問い掛けた。
毎日使うものだからと、一生懸命力を入れて磨いている成瀬とは違い、澤村は溜め息吐きながらのろのろ作業をしている。

「なんだよ~、急に?」

「ん?何となく」

早くモップ終わらせちゃいなよ、と言いながら澤村の近くにやって来た成瀬は、問いに答えながら床を磨き始める。

「もっとバスケが上手くなりたい……かな」

そう答えるのも、無理はない。
だいたい初めて未だ片手の指では有り余る程の月日しか経っていない成瀬には、澤村や神田達、先輩達の様にはプレイ出来ないのだから、真っ当な答えである。
しかし、澤村が求めている『答え』では無かった。

「他にもあるけど……今はこれ。じゃ、澤村は?」

逆に成瀬が、ようやっと床磨きを終わらせた澤村からモップを取り上げ、用具入れに片付ける。そこからバスケットボールを一つ取り、澤村に投げて寄越しながら問い返した。弧を描いて宙を舞うボールは、寸分狂いなく手の中に落ちる。

「俺も、他にもあるけどよ……早く一人立ちしたい」

澤村のシュートは、芸術的だと成瀬は思っていた。
体育館の窓から射し込む夕日の中に、美しく流れる様なフォームで左腕を上げ、ボールを解き放つ。ボードにもリングにも一切触れること無く、ボールはネットを潜り抜けた。
『音が違うんだよ』とは澤村の話で、本当に軽くネットに擦れる音だけが体育館に響く。
てんてんと転がるボールを拾った成瀬が、今度はステップを踏み宙を翔る。
今は未成熟なシュートばかりだが、成瀬の翔ぶ姿は力が満ちていると澤村は感じていた。
静のシュートに、動のシュート。
性格も行動も、何もかも反対な二人だが、想うものが共にある。

「そうだよね……お父さんの事も、あるもんね。俺とは全然、違うや」

ネットを潜り抜け落ちたボールを澤村が拾い上げると、しんみりと俯いてしまった成瀬目掛けて投げつけた。もう少しで身体に当たってしまうところだったが、しっかりと両手で受け止める。それを、元あった用具入れに戻して鍵を掛けた。

「お前はお前、俺は俺。人生代わる事なんて出来ねぇけど、気持ちは嬉しいって言っとくわ」

眉を潜めている成瀬の髪をくしゃくしゃにかき混ぜた澤村は、心配しなくて良いと言い聞かせるように笑んで見せる。

「……うん」

「それと……同じ想いも、持ってるって事もな」

「……うん!」

――――オッサン共が心配してるだろうから、早く部室帰ろうぜ。
夕日の色の中に喜びと哀しみが見えたか、二人には『らしくない』話だった。しかし同じ望みを持つもの同士の『らしい』話でもあった。




「のぞみ」
20120617




ただいまイベント会場です(笑)
始まって一時間弱…ゆったりし過ぎてるんで、小話なぞ。
これ、体育館の外でオッサン共は聞いていたりします。
オッサン呼ばわりされて、苦笑いの桜井さんに、桜井さんに謝り倒す小林さんの図を想像してやってください。

でも、オッサンの下りの前は…
小林さんは涙を、桜井さんは横見ないように目を閉じてしみじみしていると思います。


成瀬と澤村が、仲間であり、好きな人で良かったと……桜井さんも小林さんも想っているでしょう。



もう少しゆったり書いても良かったかと感じましたが、これはこれで……←やっぱ酷い書き手やわ。苦笑。

相変わらず下手ですが、成瀬と澤村の動と静の表現が、少しでも伝わっていれば幸いです。


お付き合いのほど、ありがとうございました!!
ここまで25本!!
あと半分(正確には半分じゃないけど)、突っ走ってみたいと思います♪

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