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夢の中であなたが、抱き締めていてくれる様に。

夢が醒めても。

あなたの腕の中に、私を住まわせていて下さい。





「どうですか?」

「まだ下がらないな。一度、病院でしん……」

「だ……大丈夫だ……っ」
「でも、全然熱が下がらないんだよ、澤村!!」

「こんなもん、寝てりゃ……治る」

喉を枯らせて、とても辛そうな声で澤村は、断固として医者の受診を拒否する。
その訳を、痛い程に知る成瀬と桜井は、強く言う事が出来なかった。

――――金が掛かる。

一人暮らしの澤村には、医者代に貴重な生活費を使う等、毛頭ない。
風邪ぐらい自力で治す、と息巻いて数日が過ぎている。
風邪の症状にも千差万別あり、食事と睡眠をしっかりと補うことで治るものもあれば、この様に発熱が続き、長引くものもある。
幸いにして、意識がしっかりとしている澤村は、喉に少しダメージがあるのと熱が下がらずにいることだった。
本来ならば、この状態でも何時なにが起こり、事態が急変するかも知れないので医者に行って貰いたいのは山々なのだが、と医者を親に持つ桜井は思う。

「取り敢えず今日一日、これで様子を見て……明日、熱が下がらないなら医者へ連れて行く。良いな、澤村?」

「だから行かねぇって言って……る……」

眼光は鋭いのだけれど、枯れた喉では力強く文句も言えない澤村は、咳込み始める。そんな彼の背を摩る成瀬は、落ち着かせるとカップに入れた白湯を渡す。手にした暖かい白湯を一気に飲み干した澤村は、口の端から少し零れてしまったものを、ジャージの袖で拭った。
世話焼きの煩い二人を追い払うように背を向け、ベッドへと潜り込んで澤村は一言、了解の意を唱える。そして、解熱剤の影響か、眠気を催してきたので寝ると付け加えた。

「汗かいたまま寝てちゃダメだよ。着替え、ベッドの下に置いとくからね」

「後、水分も一緒に置いてあるから、出来るだけ飲むんだぞ。辛くなったら何時でも連絡して来い。良いな」

成瀬と桜井の言葉を聞き入れた澤村は、布団から手だけを出しサインを送る。それを見た二人は、帰る旨を言葉にして玄関へと向かう。
扉から出て行く二人の変わりに、少し冷たい空気が澤村の部屋へと入り込み、篭った熱を気持ち程度だが下げる。
このまま、自分の熱も下げてくれれば世話ないものを。
そう澤村は、外の物音と話し声を聞きながら、夢うつつになって行った。



***



澤村は、誰かに抱き起こされていた。
背中を摩る手は、節だっていて大きく、ぎこちない動きをしている。
恥ずかしいのか知れないが、小声で身に付けている物を脱がす旨を伺って来た。汗を吸い込んでしまったそれは、外気に晒されて次第に冷え、冷たくなって行く。
澤村は現のままに頷き、ベッドの下にある、成瀬が用意して帰った物へ着替えさせて欲しいと甘えた。
日頃、強がる澤村ではいたが、その手の持ち主が余りにも優しくて、もっと傍に、もっと長く居て欲しい願いからの甘えだった。
その意を汲むと、一心不乱に澤村を着替えさせる。
ぎこちなさに更に輪をかけて不器用さを曝け出す手は、なかなかと思い通りに動いてくれずに持ち主は、焦り始める。
その様を手に取る様に、今している表情を思い浮かべた澤村の口元は、笑みの皺が仄かなラインを描く。
無骨な指が、下着に掛かった所でぐい、と引き寄せた澤村の耳元で一言、すまん、と謝る。自身の肩に澤村の顎を載せ、極力下を見ない様にして最後の着替えをさせてくれた。

(なんか『らしい』や……優しくされるのも悪くないな、アイツに)

胸の内で呟いた澤村の表情は、とても穏やかでいて幸福そのものだった。
その刹那、意識は花びらの様に宙を舞い、意識の深い部分に落ちて行った。



***



きぃ。
もしかしたら眠っているかも知れないと成瀬は、ドアノブに手を掛け静かに開いた。
鍵を掛けずにいるなんて無用心だと思ったが、昨夜、自分と桜井が帰ろうとした時にやって来た小林に後を託した。
その小林は、間違いなく夜通し澤村の看病をしているだろうから、鍵の一つや二つ、掛かっていなくても大丈夫だろう。
暗にそう思いながら軽々と開いたドアの隙間から見えたものに成瀬は、恥ずかしくなって開いたものを直ぐさま閉じてしまった。

「どうかしたのか?」

「あっ……あの、まだ寝てるみたいだからそっ、としとこうかなって……」

後からやって来た桜井を、澤村の部屋へは近づけない様に成瀬は、その腕を引っ張って階段を駆け降りる。
釣られる桜井は、余りの勢いにひっくり返りそうになりながら、その後ろを付いて行った。
成瀬の顔が真っ赤になっていたのを見た桜井は、そこから部屋の中で起きていた事を想像して小さく笑った。
どこまでも初心だな、と。
桜井は、成瀬の傍らに立ち、肩に腕を回して引き寄せる。

「二人は仲良く……こうして寝ていたのかな?」

肩を寄せ、成瀬の髪に額を当て耳元でこう囁いてみれば、過剰な反応を起こす。足元から崩れ落ちて行く成瀬を抱き留めてやれば、腕の中に大人しく収まってしまう。
桜井の胸の辺りで、質問の答えに肯定して頷いた成瀬は、澤村と小林がしていた事と同じ様をするのだった。



***



(……ありがと)

随分と世話を焼いてもらったお陰か、はたまた最後の薬が効いたか。
身体の怠さから何日か振りに解放された澤村の目覚めは、とても心地好いものだった。
すっかりと元の元気を取り戻したのは、成瀬や桜井のお陰もあっただろうが……


昨夜からずっと傍に居て、移るかも知れないのに優しく抱き締めてくれていた『小林純直』と言う薬が効いたのだと澤村は、暖かな腕の中で思うのだった。





抱きしめて / 20110302







コバサワなんだけどサクナルにも見える、そんなお話でした。


きっとこんな風邪ネタ、抱きしめられて目覚めるネタは、どこぞで書いているだろうと思いますが…ご容赦を(^-^;



しかし、桜井さん…目立ちすぎなんすけど(笑)

下着の辺りは、どうしようか~って悩んだんですが、コバは見ないように~見ないように~ってドキドキしながら澤村を着替えさせているのも良いかも…で書きました。
コバの、何時までたっても初心な姿を見てやってくださいませ(笑)



成瀬は何時もの事だから。苦笑。



相変わらずド下手な小話ではありますが、少しでもホッコリして頂けましたら幸です。







すみません…月末月初の仕事の酷さに、また風邪を振り返し…しばらく出てこないかも知れません。
相変わらず日記だけ(ちょっと日記書く気力もヤバいです、今)のサイトですが…もっそり見守ってやってくださいませ(^-^;
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