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唐突に成瀬は、こんなことを聞いてきた。

「どうして『俺』だったんですか?」

と。








窓辺に腰を据え、庭に足を放り出した状態で、梅の枝から枝へと飛び跳ねる鶯を、愛らしいと俺は眺めていた。
春の訪れを告げる鶯の、まだ幼い鳴き声に口元を綻ばせていると、背後から成瀬がこう声を掛けてきた。
首だけで振り返り、表情を緩めたままにして小さな声を立てる。

「ん?」

「どうして桜井さんは、『俺』を選んだんですが?」
昨日、部屋に泊まっていた成瀬は、俺の表情とは対照的に、眉間に皺を寄せて睨み付けている。
怒りたいのか、泣きたいのか……そんな曖昧な様を浮かべていた。

「どうして?」

「はい……『どうして』……です」

身に付けているのは、服を汚してしまった所為で洗濯に出され、仕方無しに着ているサイズの合わない俺のパジャマ。
手足の余った部分は盛大に折り曲げられ、肩はずり落ち、かなり開いている襟からは朱い痕が見え隠れしている。
昨日、自分が付けた……小さな朱い痕。
改めて、この日の明るい場所で見てみると、我ながら恥ずかしい。
見境無くした、余裕の無い自分自身を鮮明に思い出させるには威力絶大な、成瀬の胸元だった。
仕出かした事には、全くの後悔は無い。
そんなものがあれば今頃、彼は俺のパジャマを着た姿を此処で披露していないだろう。
今までも、これからも、唯の『先輩と後輩』だっただろう。


その関係を壊したかったのは……他でもない、俺の想いからだ。
我が儘な感情だと思っていたが、成瀬も同じ想いでいてくれた事を知り、嬉しさの余り……今の状態に至っていた。







成瀬が言わんとしているところ、聞きたいところが見えて来た俺は、彼の眼前に立ち、しっかりと顔を見据える。
昨日も心の中をさらけ出し、腕の中に居た成瀬に懇懇と囁き続けたと言うのに、不安にさせてしまっていたのかと反省した。
その不安を早く解きたくて手を伸ばし抱き寄せようとすると、成瀬は身体を強張らせて怯えてしまった。

「すまない。そんなに怖い思いをさせてしまったか?」

「ち……違います!!ちょっとびっくりして……」

「昨日みたいな事はしないから、少しだけ我慢してくれ」

更にもう一度、抱き締める旨を伝えると成瀬は、困ったような顔をして頷いてくれた。
その身体に触れるか、触れないか位の距離で腕を伸ばし、彼を取り巻く空気もろとも手中に収める。
すると、俺達の熱に煽られたか、回りを取り囲んでいる物が一気に温度を上げた。と、同時に、俺と成瀬の体温も……昨夜感じ合ったものへと変えて行った。

「……あ……っ……」

小さく、感じ入った声を上げた成瀬の、その声に引き合う様にし俺の心音が鳴る早さを加速させる。
恥ずかしさから俯いた彼の髪に顔を埋め、これが『どうして』の答えだと伝える。

「成瀬じゃないと駄目なんだ……成瀬の全てに俺は、惹かれているんだ」

ありったけの想いを込めて、好きだと言う気持ちを彼に捧げる。
成瀬は、それを受け止めてくれたのだろう。
先程、見せていた眉間の皺は消え失せ、表情を和らげたか息を吐く。そして、俺の背に腕を回して爪を立ると、抱き締め返すのだった。






思いを込めて / 20110306





またまた、こっぱずかしいサクナル出来上がりました☆
コメントなんて出来ないので、さっさと逃げます~


ちょっと踏み込んだのが、この程度ですが…これでも書いた本人は、とてつもなく恥ずかしかったりします。涙。



1月から少しずつ書いてきた『お題』でしたが、このお話で終了です。
少し偏ったカプリングチョイスになってしまいました…自分の、その時の気持ち、その時に書きたかったカプリングで綴らせて頂きました。
お付き合い頂きまして、ありがとうございました!!
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