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同室の桜井と馬呉は、頭を抱えていた。
きっと、他の部屋に宿泊している人間も、同じ事で頭を抱えているだろうと思う。

「仕方ないかな」

「そうだな」

自分達が規格外の体格をしていることは、判っている。それに、こういう物は、大抵が同じ作りの物を使っているのも、判っている。
「床にでも寝たい気分だ」
「いっそ、床の方が楽だろうな」

うんうん、と大きな男二人は顔を付き合わせて頷いた。
腕を組み、悩むものの使える寝具は、目の前にあるシングルのベッドのみ。
大会期間中だけなのだから、致し方あるまい。
桜井と馬呉は、用意してくれたホテル側には申し訳ないと思いながら、小さな溜息を吐いた。




**




どんどんどん――――
ドアが打ち鳴らされ、来客を告げる。
馬呉は、先生に呼ばれて此処には居ない。
誰だろうと小首を傾げて桜井は、ドアノブを捻る。
一応、何かがあってはいけないとチェーンが掛けられてある。
はい、と返事をしながら開いてみれば、成瀬が向こう側に立っていた。

「あの……下で、主将が呼んでます」

先輩の部屋に来て、おっかなびっくりしている成瀬は、自分より十数センチ高い位置にある顔を見上げてこう言った。
馬呉の近くにでも居て、使い走りにでもされたのだろう。
バスケ部できっと一番小柄な成瀬を小動物の様に見てしまう桜井は、ついつい、眼鏡の奥にある瞳を細めて、慈愛の念を出してしまう。

「……あの、桜井さん?」

じっと上から目線で見詰められ、どうして良いのか判らないと困り果てた後輩、怖ず怖ず声をかける。
我に還り謝った桜井は、チェーンを外して彼を室内へ入るよう促す。

「何か持って来いとか、言っていたか?」

「いえ、特には」

「そう」

やはり先輩の部屋だから落ち着かない様子で、成瀬は更に縮こまってドアの傍に立っていた。
そんなところに居ないで入って来い、と言ってみたが、頑なな後輩は立ち尽くすだけだった。
部屋の奥からその様子を伺いながら、室外へ出る用意をしていた桜井の視界に、ふと白い物が掠める。
そうだ、と成瀬の立っているドアへ足を向けた桜井は、所在なさ気にしている腕を取り引っ張った。
がくんと身体が振られて驚いた後輩は、足を取られてふらふらとよろめく。
何事が起きたのか判らず、ぼんやりしている成瀬の視界には、先程の景色とは全く違う、ライトと天井が目に映った。

「成瀬で…ぎりぎりか」

「え……此処……」

そして、桜井の顔が至近距離にある。
今、置かれている状況を整理し、把握できた成瀬は大声を上げた。
ベッドへ押し倒され、肩を捕まれ動けないようにがっちりと固定されていた。

「そんな声、出さないで欲しいな」

「でもっ……でもっ!!」
大声は、悲鳴とイコールで結ばれていた。
隣に誰かが居れば、間違いなくこの部屋に飛び込んで来るだろう。
成瀬の声は、ひっくり返り甲高い、まるで女の子の様に聞こえてしまう。
どこか悪い事をしている気分に間違えてなってしまいそうだと桜井は思うも、ベッドの上、両肩を押さえ付けられてジタバタしている姿に見惚れてしまう。

「はっ、離して下さ……うわっ!! 何で抱き着いて来るんですかっ?!」

「うーん……成瀬が可愛かったから、かな?」

「疑問系で俺に聞かないで下さいよーっ!」

散々っぱら先輩に振り回された成瀬は、抱き締められたままベッドの上で添い寝している状態で悪態を付く。しかし、間近で初めて見た桜井の、眠そうな表情に何故か胸が高鳴る。
恥ずかしくて、照れているのが自分でも良く判る。
触れている桜井の体温よりも、成瀬の体温の方が熱く、全身のぼせ上がっていた。
一指たりとも動けない、動かせないこの状況に流されたか成瀬は、桜井の背中へそっ、と腕を回していた。
呼びに行った割にはなかなか下りて来ないと、同室の馬呉に踏み込まれでもすれば、完全に誤解されるだろうな。
頭の片隅で桜井は考えながらも、自分の身体にはサイズが合っていないが、ふかふかとした布団と、成瀬の体温が気持ち良くて欠伸をし始めた。
眠気を催せば、人の身体は重くなる。
成瀬の肌に当たっている桜井の腕から力が抜け、ずしりと重みを増す。

「おやすみ……」

「ちょ、ちょっと桜井さんっ?! 主将が呼んでるんですよっ!!」

「…………好き、だ……な……」

――――るせ。

寝る宣告をした桜井に驚いた成瀬は、回した腕で背中を掴み、揺さぶり起こす。しかし、完全に眠りに入ってしまった。
言葉が寝息に変わる刹那、その口元から零れ落ちた囁きに、揺さぶっていた手は桜井の服を握り締めた。



小さく丸くなっている成瀬を覆い隠すように、桜井の身体は寄り添い丸くなっていた。






おひるね 20110509






追記。

馬呉に目撃されるまえに何故か澤村くんに目撃された成瀬くん。
とっても素敵な、二人の寄り添っている寝顔を写真に収められ……
優しい澤村くんは、売り捌かないでやるから昼飯しばらく寄越せ、と言ったのでした。




はい。
昨日、師匠んとこで売り子ちゃんをしているときにガリガリ書いてました。
実は、三分の二まで出来ていて、さっき残りを書きました。
いやぁ~盛り上がってるときの作業は、早いね(笑)



そんなこんなで、ちょっぴり実話。
こないだの長野旅行。
ホテルに泊まった時、ベッドに転がったらギリギリやったんですわ、真っすぐ寝たら。
私、寝るときは右を上にして丸くなって寝ているので、問題ないっちゃないんですが、桜井さん付近の身長だと絶対はみ出すな、と思った時に出たネタ。

いっちゃん近い身長が成瀬だったので、と、私のシュミより…サクナル。



はしょり気味ではございますが、言いたかった事は書けたから…良いです。苦笑。



ほだされ体質・成瀬くんでございました。
ちょっぴりその気があるから…嬉しかったんだよな(笑)
桜井さん、単に寝汚い人になってしまった…すまぬ。でも、その気があるから押し倒したんだよな(笑)



そして、何やってんだ桜岡!でした(笑)






小話、お付き合いの程、ありがとうございました☆
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