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いつも朝練習の為に、早い時間の電車に乗っている。
日頃、車両には勝手に顔なじみな人々が数人乗っているだけなのに、今日はやけに込み合っていた。
働く人々の姿はごくごく僅かでいて、朝練習に向かう俺達と同じ様に大きな荷物を抱えている学生が、車両の大半を占めていた。

「成瀬。荷物、上げるぞ」

「すっ……すみません」

隣に立つ先輩は、俺が肩に掛けていた荷物を、電車に乗り込むなり取り上げ、網棚に乗せていまう。
もちろん、自分の荷物も同じ様に軽々と持ち上げ、乗せてしまった。
身長が低い俺では、電車が動き出すなりよろめくのだオチだろうけど先輩は、ドアに額をぶつけてしまうのではないかと思うくらい長身で、しっかりとした体つきをしている。
だから、こういう事は先輩が、小さくのろまな俺に変わっててきぱきと熟してしまう。


両手を空にした俺達は、並んで窓際に立っていた。
まだ、日が昇るか昇らないかの白々とした空の風景が、車窓を流れて行く。
毎朝の事なのに、毎朝変わる景色が視界に入る。
椅子に座り寝ている仕事場へ向かう人々を、起こしてしまわないように気をつけて先輩と俺は、窓の外をながめがら、小さな声で会話を交わす。
目を向けている、流れ行く景色を見詰めていると、眠気がふつふつと沸き上がり、つい欠伸をしてしまった。
話をしている最中に失礼だとは思ったが、うっかりと零してしまう。

「……成瀬が欠伸したから、俺まで移ったじゃないか」

ぽん、と大きな手の平が頭の上に、言葉と共に乗せられた。
目尻に溜まった涙を、制服の袖で拭いながら顔を上げた俺は、先輩も同じ様に涙を拭っている姿に出くわす。
眼鏡を指先で少し持ち上げると共に、涙を掬っている姿に。

「す……すっ……」

すみません、と言う台詞は、またまた出てしまった欠伸によって、掻き消されてしまう。
これは、先輩に釣られた欠伸だ。

二人して涙の溜まった目尻に手をやりながら、顔を見合わせ思わず笑ってしまう。



朝が早いというのに、賑々しい声を発てている周りとは違い、窓辺に立つ俺と先輩を包む空気だけが違っている様に感じられた。

柔らかな朝の光りに包まれている此処は、世の喧騒とは別世界であった。





いっしょ
20111016






先週のイベントで下書きしたものです。
なかなか打ち込みも出来ず今頃になっちゃいました。

朝の通勤時、結構賑々しいので…その当たりをネタに。
正直、煩くて寝づらいんですが…それでもいつの間にか寝てる桜岡でした(笑)



この二人は、こんな感じがよく似合うなぁ~と思うのでありました。
小話、お付き合いありがとうございました。
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