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夏の夜の、夢現(ゆめうつつ)

淡き光、揺らめいて

愛し子の姿、取り替える










雨が降り、蒸した日が続いていた。
元々体温が高いのか徹は、少しでも涼やかな場所を探し、あっちフラフラこっちフラフラとしていた。

「動くと余計に暑いぞ。これでも使って、大人しくしていなさい」

「ふぁ~い……」

少々、堪え性が無いなと思いつつ桜井は、風通しの良さそうな場所に座り込み、手渡された団扇で涼を取る徹を呆れ顔で見詰めていた。



***


夜になり昼間降り続いていた雨が止み、久方振りに雲無い星空が顔を覗かせた。
先程まで動くのも億劫だと態が語っていたのに、腹の虫が鳴いた瞬間、徹は動き始める。
外見が人とは違い、ふわふわとした耳と尻尾がある彼は、それを揺らして伺いを立てる。修司の傍を行ったり来たり、強請る様な顔をして更に伺いを立てていた。

「……徹、俺を急かすなら手伝いなさい」

薬師でもある修司は、何時もなら徹と共に店に立つのだが、あの腑抜けた姿で店番をさせられないと今日は一人、勤しんでいた。
そろそろ閉めようと片付け始めた時、伺い顔をさせて現われたのだ。
そんな徹へ、両手を腰に当て呆れた口調で手伝いをする様、言い付ける修司だった。

「……ごめんなさい」

自分の事ばかりに気を取られ、すっかり店の事が疎かになっていたと、言われて気付いた徹は反省し、耳と尾っぽと顔を項垂れ謝り手伝いを始めた。
判れば良いんだと修司は、身体を小さくさせている幼子を優しく抱き、髪を撫でてやる。

「はい。じゃ、片付けて食事にしよう」

その一言だけで徹は、沈ませていた顔をぱあっ、と明るいものへと変え、片付けをしっかり手伝うのだった。
二人ですると時間も掛からず店仕舞いは早々に終わり、食事の用意を仲良く始める。
涼しさを出そうと夕餉をさっぱりとした物にし、風の行く様を感じられる縁側で食べようと、二人は仲良く用意をした。
卓を持ち出し惣菜を並べ、育ち盛り食べ盛りの徹には少し多めに、晩酌がてらの食事をする修司は少なめに櫃の飯をよそう。

「頂きまーすっ!!」

一仕事終えた食事は、さぞ美味しかろう。
否。
徹は常に出された食事は、嫌いなものがあろうが綺麗に平らげるのだ。
自分の為に作ってくれているという感謝と、食べさせて貰っていると言う謝罪と。
修司に助けて貰わなければ、今頃、徹は此処に存在していなかっただろうと――――思う。
今日も変わらず元気良く、碗を手にしたまま焼き物や煮物に手を出し、胃袋へと収めて行く。
誰も、前に並べられた惣菜を取りはしないのに、徹の箸の勢いは留まることを知らずにいた。
碗の飯が無くなれば、耳を垂れ下げて修司に伺たて、お代わりを願う。
気にしなくても良いのにと、これまた毎回のように同じ事を言いながら空の碗を徹の手から取り、しっかりと盛った飯を渡してやる。
お礼を言いながらも目はキラキラさせて、少しまだ湯気の上がる飯の虜になっていた。
くすり、とその様を見て笑う修司に気づいた徹は、顔を真っ赤にさせてしまう。
「冷めないうちに食べなさい」

まだ笑っている修司の言葉に頷くと、喉に詰まらせながらも一気に腹へと収めて行く徹だった。



***



食事を終え、食べ過ぎて身動き取れなくなった徹を置いて修司は、ほろ酔い加減の足取りで片付けを一人始める。
これも何時もの事でいて、さして怒りもしなかった。
「可愛さに負けてるな、完全に」

食事前の態度とは酷い違いだと、自分自身に苦笑いする。
使った皿を引き、卓を奥の和室に戻す。洗い物も手早く済ませると、手ぬぐいで濡れた指先や腕を拭きながら縁側へ戻ってみれば、冷たい板敷きの上で寝転がっていた徹の姿が無かった。
おや、と辺りを見渡しても、ふわふわとした耳と尻尾を見つける事が出来なかった。
部屋にでも行ったかと思い、徹が先程までいた場所に腰を下ろした。
雨も上がり、夜の所為だからか昼間のような重苦しい空気ではなく、幾分涼やかな風が漂っている。
さら、と修司の少し長めの髪を揺らせ、肌の上を通り過ぎて行った。
その風は、水の香りも運んで来、また明日は雨が降るのだろうか……と思いながら、酔いも満腹感も手伝って眠気を催す。
欠伸をして徹が転がっていた様に身体を横たえ、板敷きと風涼やかさにとろり、と瞼が下りてしまうのだった。



***



――――ん……

何処からか声が聞こえて来た。
徹のものとは違い、少し低い感じの声に修司は、眠い目を擦り身体を起こす。
横になった後、いつの間にか眠ってしまった様で、気怠さを伴う目覚めとなった。
空気の流れが変わったのか、湿気が食事をしていた時よりも多く感じられる。
夜空に浮かぶ星も、灰色した雲が隠してしまっていた。
そのかわり、庭先に青白い光りが幾つか浮かんでいた。

「――――蛍火か」

生暖かい風に乗る蛍は、その流れに身を任せ、ゆらゆらと揺れていた。
時折、疲れを癒すように、庭にある小さな池の周りに茂る草に、寄り添い留まる。
蛍火の艶やかさを修司は、星空の変わりに暫く見つめていた。




「起きましたか、修司さん?」

そうだ、と掛けられた声を耳にして、思い出す。
徹の声のようでいて違う様な、その在り処を探そうとしていた筈だが、蛍火に気を取られてしまっていた。
庭先を彩る蛍火の向こう、闇の中に仄かに浮かぶ人影を見つける。
誰だ――――と声を荒げそうになったが、人影は修司の方へと移動してきた。

「……徹か?!」

「そうですよ。やだなぁ……修司さん、寝ぼけてるんですか?」

「お前……は、誰だ?!」
「……え?」

「俺が知っている徹じゃない……俺は、狐か狸に謀られているのか?!第一、徹には耳と尻尾がある!お前には、それがない!!」

「一体どうしたんですか?ずっと一緒に居るのに……俺が『徹』だと信じられないですか?」

――――ほら、此処に修司さんの付けてくれた痕、あるじゃないですか?

そう言った徹の様で、そうではない徹が、ゆったりとした動きで驚き身動き取れないでいる修司へ近づく。
ほんのりと頬を紅く染め、伏し目がちに顔を下げると、両手を胸元へ持ってくる。そして袷を割り開いて、幾つか散りばめられている色濃い痕を見せた。

「――――つっ!!」

均整の取れた身体付きをしている徹の、張りある肌の上に散る小さな紅い痕は、健康的な外見には似つかわしく無いものだった。
それを自分が付けたのか?と修司は、驚愕の勢いそのままに悲鳴を上げてしまう。

目の前に立つ徹の周りは、数え切れない位の蛍が飛び、その火が紅い痕を、なまめかしく笑う姿を浮き上がらせていた。



***



「――――うわぁっ!!」
「だ、大丈夫ですか?!凄く魘されてましたよ?」

「……此処は?」

「やだなぁ、修司さんが寝ぼけるだなんて。家じゃないですか。あーあ、凄い汗だ……」

変な夢でも見ましたか?と、徹は息を荒げている修司に声を掛けながら、手にした手ぬぐいで額に浮かぶ玉の汗を拭って行く。その手が優しく動く度に、落ち着きを取り戻し、辺りを見回して我が家だと認識する。
庭の方へと目をやれば、蛍火がゆらゆらと揺れていたが、先程修司が見た艶やかさは微塵も無く、幼い雰囲気でいる何時もの徹だった。
甲斐甲斐しく世話を焼いている目の前な幼子の、揺れる浴衣の袷を覗き見れば紅い痕は無く、見慣れたふわふわとした毛で被われた耳と尻尾に修司は安堵の息を吐く。
それは、落ち着いたからの吐息だと認識した徹は、盆に乗せて持ってきた茶と、西瓜を差し出した。

「今日、頂いた西瓜……井戸で冷やしていたの、切ってみました」

不器用な徹が頑張って包丁と格闘した結果、なかなかどうしたらこう乱切りになるのだろうかと思うくらい、西瓜は無残な姿になってしまっていた。
指差し苦笑いする修司に、苦笑いで返した徹はうなだれた。
触れた西瓜はひんやりとしていて、一口噛めば甘い水気と実で、汗をかいた身体に潤いが戻っていく様だった。

「とても美味しいよ。用意してくれてありがとう。ご苦労様」

そう言った修司は、柔らかな茶色の髪を掻き混ぜ、徹を褒めた。
褒めて貰えた事が嬉しくて徹は、満面の笑みを湛えて修司を見詰める。
少し色艶があるように見えるのは蛍の所為だと、頭(かぶり)を振り先程見た幻を消し去り、目の前の可愛い人に微笑み返した。

蛍火が揺れる庭先を眺めながら二人は、寄り添い西瓜を口にするのだった。




――――小さな蛍が一つ、徹の浴衣にひた、と張り付き灯を点ければ……肌に紅い痕が浮き上がっていた。







蛍火
20110705




思ったより長くなった…
せくすぃー部長見てたら、手がお留守になってました(笑)


実は、これ…去年書きはじめて、仕上がったの今日!!
書いては止め、放置しては思い出したように始め…今です。涙。



またまたワンコ成瀬でございましたが、蛍が見せた幻は嘘か真か……な、お話でした。
こんなネタで幾つも書いてますが…サクナルでは初めて?かな。
いやぁ~古いものは極力、読み返さない主義なんで←たまに読んだら悶絶してます、酷すぎて。
今でも酷すぎんのは、百も承知ナリ!!
だからイジメないでやってください(T_T)



そんなこんなで…久々にblog散文でした。

お付き合いの程、ありがとうございました!
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