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部屋が蒸し、苛々が募ってきた澤村は、夜風にでも吹かれてみようかと窓を開く。
しかし、風は何処からも湧くこと無く、賑やかな騒音だけが部屋に潜り込んで来るだけだった。
更に苛々が募り、勢い良く窓を閉じると、玄関口に脱ぎ散らかされているビーチサンダルに足を突っ込んだ。

「成瀬ん家にでも転がり込んで、クーラーをガンガンに効かせて寝てぇ……」

こんな暴挙に出られる相手は、ヤツぐらいだからな。
パジャマ変わりに着ているタンクトップにハーフパンツ姿の澤村は、そんなラフな格好で街中へと紛れて行く。
部屋の鍵と少額のコインをポケットへ突っ込み、ついでに両手も突っ込んで生温い風に身体を晒していた。纏わり付くそれの所為で、家から僅か数分歩いただけで、後悔する羽目に陥る。じわりと滲み出る汗の感触が気持ち悪く、不快感と苛々が募り募って行く。

「なけなしの扇風機の風と、部屋で仲良くしている方が良かった……」

成瀬の家まで堪えられないと肩を落とした澤村は、踵を返して自分の部屋を目指して歩き始める。
視線を少し上げてみれば、切れかかった街灯が不規則に点滅している公園の前だった。
確か此処に水場があったなと澤村は、涼が欲しい一心で薄暗い公園へと足を踏み入れた。






「……生き返ったぜ」

静まり返っている夜の公園だが時折、人の囁き声と怪しげな物音が響いていたが澤村は、一切気に留めることなく目的の水場へと向かった。
昼間は、傍にある大きな噴水に人が集まっているのだが、今は夜。水を色とりどりの形に噴き出すそれは動きを止め、電灯で存在を主張しているだけだった。
大きな存在の噴水から少し離れたところにある小さな水場で澤村は、蛇口を勢い良く捻り、噴き出す水を手で受け止めていた。
始めは温めの水だったが、暫く出し続けていると仄かに冷たさが混じって来る。着ている物をぐずぐずに濡らしている澤村を、誰も咎める者など居らず、自由気ままに夜の公園で一人、
水浴びを楽しんでいた。





「ちょっと、やり過ぎたか」
それも仕方ないかと暑さの所為に全てして澤村は、水浸しの身体と頭を振る。
すると、水滴は辺りへと飛び跳ね、電灯に照らされて虹色の粒へと変わって行った。
タンクトップを脱ぐと、しっかりと水分を含んだそれを絞り上げ、水気を切りる為に上下に払えば、力は使うが涼やかな風が起こる。それを肩にひっ掛ければ、肌に当たった部分がひんやりとして気持ちが良かった。
一つ息を吐き、心地好い涼にうっとりとしていたが、流石に足元はどうする事も出来なかった。
水の重みが加わったハーフパンツがずり落ちない様に手で押さえ、泥だらけになっているビーチサンダル履きの素足で家へと戻って行った。


その途中。
店の配達で使っている、失礼だから古ぼけた自転車に跨がった、丁髷頭の男に出くわした。
何故、こんな所に居るのかと澤村が問えば、暑さで参っているのでは無いかと心配だから来てみた、と言う。
目の前にいる男は、水浸しで上半身裸に足元は泥だらけの姿に、目を丸くして何があったのか?と聞いてくる。

「部屋が暑かったから散歩に出たら、余計に暑くて公園の水場で、水浴びした」
「……そ、そうか。何も無ければ、それで良い」

――――暑さ凌ぎに、成瀬の所にでも行くつもりだったのかと思った。
そう言った男は、くるりと自転車の向きを変え、漕げば軋む音がするペダルを踏み込んだ。
気をつけて帰れよ。
無口で、自分の思いを上手く伝えられないヤツだと知っている澤村は、男の口から『成瀬』の名が出て……嫉妬しているのだと感じる。
走り出した古ぼけた自転車を追い掛け、追い付くと後ろの荷台に澤村は飛び乗り、裸のままの胸で男の背中にしがみ付いた。

「アンタんちに連れてってくれよ……部屋、暑くて仕方ねぇんだよな」

「……っ!危ないだろうっ!!」

「なぁ……」

「あまりお前の部屋と変わらないぞ。クーラー無いんだからな」

それでも構わない、アンタが一緒なら。
澤村の行動と言葉に男は驚き、ハンドルを取られてしまう。
しかし、揺れた割には動きを止めないでいた自転車は、バランスを保ちながら道を進み続けるのだった。


――――掴まっていろ、と自分の腰に澤村の手を巻き付けながら。





夜の公園
20110714





すみません…がっきーにしてやられてスッカリとハレビモード(笑)←チョロ過ぎる。

それもありますが、夏に向けてのリハビリ。
コバサワって何時まで経っても掴めなくて、動かせなくて大変なんです。
如何せん、あんな二人だから。苦笑。



そんなこんなで、水浴びとか上半身裸が異様に似合う男、澤村でした(笑)
丁髷頭は、嫉妬しても口下手、表現下手…ですが、本音ポロリとさせてみました。
開放的な夏だから←なんか違う。




うわ~
久々過ぎても変わらずドヘタなコバサワ、お付き合いありがとうございました!
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