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昨日までの寒さなんて何処へやら。
ぽかぽかとした陽気に誘われて、風に乗ってサーフィンしている若葉の様に、成瀬の足取りは軽やかであった。
手にはレトロな茶色い紙袋を抱え、あっちふらふら、こっちふらふら。
時折、芽吹いた桜の花に触れたり、足を止めて晴天を仰ぎ見た。


幸せ――――とは、正にこの事なり。


締まりの無い表情をして成瀬は、うまい具合に木立で日陰の出来たベンチへ腰掛けた。
過ごしやすい、身体にはちょうど良い温度に、あくびの一つも出てしまう。

「平和だな……幸せだなぁ……」

へにゃり、と目尻を下げて微笑むと、手にした紙袋の中に手を差し入れた。

「幸せには、付き物……だよねぇ……」

普段以上に間延びしている成瀬の、この有様を見れば、馬呉辺りが拳を一つ食らわせてしまいそうだ。
しかし、今日の部活は休み。
成瀬にとって、目の上のタンコブ、は居ない訳である。
カサカサ、と渇いた音をさせる紙袋から取り出したは、一匹の鯛焼き。
此処へやってくる迄に、焼きたて熱々の鯛焼きは、ほんのり人肌の暖かさになっていた。

「いっただっきまーすっ!!」

鯛焼きを食べるのは、口からか?尻尾からか?
そんな談義を醸し出す人間も周りには無く、成瀬は盛大に口を開いて鯛焼きにかぶりつく。

「あっまーい、おいしーっ、しあわせーっ!!」

がぶり、と噛み跡を鯛焼きの表面に残して、小豆とカリカリの外皮は成瀬にかみ砕かれ、胃袋の中へと滑り込んで行った。
それを二度、三度繰り返せば、すっかり一匹分の鯛焼きは、手の中から消えて無くなった。

「もう一匹」

もぐもぐ口を動かし、飲み込んでは美味しいと決め台詞を零す。
目を細めて鯛焼きを頬張る成瀬は、本当に幸せそうに破顔している。
この緩みきった顔を是非写真に収め、誰かさんに見せれば間違いなく喜ぶだろう。
澤村辺りならやりかねないが、そんな彼も此処には居ない。
一人きり思う存分、美味しくて甘い鯛焼きで腹を満たし、天気の良さも相俟って幸せいっぱいの成瀬だった。






「……こんな所に居たのか、成瀬?」

「わっ…わわっ?!」

「学校を抜け出したと思ったら、買い食いか……馬呉に言い付けておこうかな」
突然、降って湧いた声に動揺した成瀬の、しっかと抱き締めていた紙袋が、賑やかしい音をさせて腕の中からこぼれ落ちた。
もう少しで数匹残っていた鯛焼きが、地面に転がるすんでで紙袋の口を握り締め、事なきを得る。

「ごめんなさいっ、もうしませんから言わないで下さいっ、桜井さんっ!!」

「とか言って……また、買い食いするだろう?言わない、言わない。安心しろ」

「……桜井さんの意地悪」
地面に座り込んで紙袋を受け止めた成瀬を、降って湧いた桜井は抱え上げ、先程まで破顔して座っていたベンチに下ろしてやる。制服に付いた土を払い落として、自分も成瀬の隣に腰を下ろした。
ぽっかりと青空に浮かんだ雲を一つ二つと数えながら、目の前を通り過ぎて行く桜の花びらを穏やかな気持ちで見詰める。
先程まで一人はしゃいでいた成瀬は急に黙り込み、俯いて顔を真っ赤にしていた。
それもその筈で、ベンチに置かれた成瀬の手を、桜井がしっかりと握り締めていたからだ。
指先でとんとん、と握り込んだ彼の手に合図を送る。なかなか顔を上げない成瀬に、根気良くそれを続けた。

「成瀬?」

「…………」

「もうそろそろ顔、上げてくれても良いんじゃないか」

握られている手を離さなければ、成瀬は絶対に顔を上げない。
桜井は判っていたが、どうしても照れているその表情を見てみたい欲望が勝り、こうして手に触れたままでいる。
成瀬も、こんな顔を見られまいと下を向き、首を左右に振って拒絶する。
埒の明かない二人のやり取りは暫し続き、先に折れたのは先輩の桜井だった。
少し日の傾きはじめた春の夕暮れ時。
日中、穏やかな暖かさに見舞われるも、やはり太陽が顔を沈ませると、肌寒さを感じる。
桜の花を付けた枝も、冷たさを纏った風に揺さぶられ、花を散らして行く。
さらさら流れ落ちる花弁を見詰めたまま桜井は、成瀬の手を解く。今まで暖かくあった手の平が、一気に冷えて行き、少し寂しさを感じた。

「さ、成瀬。そろそろ帰ろう。身体が冷えてしまうぞ」

薄桃色の花弁で飾られた成瀬の髪をひと撫でして桜井は、先にベンチから腰を上げ、成瀬へと手を差し出す。
今まで暖かかった手の温もりが今更恋しくなったか成瀬は、先を急ぐように桜井の手を握り、そのまま胸の中へ倒れ込む。
想像していなかった後輩の行動に、刹那、先輩は驚いた表情をしたが直ぐさま笑みへと変えてしまう。

「どうかしたのか?」

「桜井さんが暖かいから、ダメなんです」

「ダメ、とは失礼だな。俺も、成瀬が暖かいから……こんな風に出来て、嬉しいな」

――――でも、鯛焼きが潰れてしまうぞ。
桜の持つ甘い香りに酔ったか、二人の間にも甘い香りが漂う。
しかし、何処か外している桜井は、こんなに甘くて良い雰囲気なのに、成瀬が抱えている鯛焼き入りの紙袋に注意を払いつつ、それごと身体を抱き締めた。
成瀬は、桜井の両腕の中で右へ左へと身体を揺すり、落ち着ける場所を見付ける。

「……はい」

「ん?」

「最後の一匹……桜餡の入った鯛焼きです」

この季節ならではの味の鯛焼きを最後に残していたか、成瀬は顔を上向けて桜井へ最後の一匹を差し出した。
恥ずかしくても懸命な後輩の可愛らしさに、何時も悠然と構えている先輩の顔が朱くなる。

「じゃ、遠慮無く……頂きます」

桜井は、成瀬が銜えて差し出してきた鯛焼きを、その背中をしっかりと抱いたまま端から齧(かじ)り付くのだった。







春うらら
20120418






頑張った、成瀬!
私も、頑張った!


……(笑)



いや、鯛焼き大好きなんですよね~
私は、黒餡よりも白餡や、カスタードとかお菓子っぽいの大好きです。
一人で3、4匹平気で食べます(笑)


そんな鯛焼きネタ。
まあ、春だからね…ちょっと湧いてみました←をいっ!!


相変わらず中途半端な小話ですが、お付き合いありがとうございました☆


前半、私にしては珍しく変わったテンションになってる文章だと…勝手に思ってます。苦笑。
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