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「桜井ー、客だぞ、客!」

友人達と談笑していた桜井は、声がした教室の入り口へと顔を向けた。
手招きしている様子から、同学年の連中ではないと察し席を立つ。周りの男子より頭ひとつ大きな桜井は、皆に見送られながら悠然と入り口へ歩いて行く。

「ほれ」

「成瀬じゃないか?」

「……すみません、少しだけ良いですか?」

「じゃーねー、成瀬君。桜井、暫く帰ってくるんじゃねーぞ」

「勝手な事、言うなよ。授業あるだろう……お前、だんだん澤村に似てきたぞ、喋り方」

「お前の弱味、握って楽しいんだから仕方ねぇだろう? 残念ながら次は自習だ。因みに成瀬君のクラスもな」

行ってらっしゃい、と教室から放り出された桜井は、軽口を叩くクラスメートを睨み付ける。睨まれた側はと言えば、何食わぬ顔して手を振った後、散れと手を払う。
彼からの扱いの酷さを察してか、ずり落ちてきた眼鏡を指で持ち上げ、困惑している成瀬の肩を抱いて部室へと避難した。


*****


「あの……」

「泣きそうな顔をして、どうしたんだ?」

「さっきの人と仲、良いんですね」

「あれは放って置いて良い。関わると、ろくなこ事が起きないからな。ひとつ間違っているから修正しておく。仲が良いと言うレベルからは、かけ離れた存在だ」

足を止め吐き出した成瀬の呟きに桜井は、かなり痛い目に遇わされているのだから正直関わりたくない、と愚痴る。
しかし、その愚痴を成瀬は全く聞いていない様子で、何時もの天真爛漫さが微塵も感じられない表情をしていた。
一応、この場所に人が居ないことを確認し、桜井が成瀬の頬へ手を伸ばす。触れるか触れないか、あと一歩のところで拒絶の意思を示す。
成瀬は、本当は触れて欲しくて仕方無い、桜井の手の肌を思いきり叩いた。
二人きりの冷えた廊下を、更に冷えた音が鳴り響いた。
桜井は目を丸くして、成瀬は目をつり上げて互いを見る。

「随分と機嫌が悪い様だが……最初から文句や不満を言うつもりで俺のところへ来たのか?」

「違います。今日は桜井さんの誕生日だからと、朝から俺の所へプレゼントを渡して欲しい女の子達がたくさん来ました。あまりにもプレゼントが多すぎて、置き場に困ったので先に連絡に来ました」

「それは、何処に置いてあるんだ?」

「部室です」

「ちょうど良い。此処で話していても、埒が明かん。来い」

「俺、行きませんから! 置き場は伝えました。勝手に行って見て下さい! すぐに分かりますから!」

相変わらず表情を変えないまま成瀬は、桜井が冷静さを保つ為に穏やかさを装っている事に気付かず、語気をどんどん荒げて行く。終いには、突き放す様に言葉を吐き捨てた。

「────判った。成瀬の言いたい事は、それだけだな。部室へは勝手に行くから、帰って良いぞ」

何時もなら礼のひとつも言うのだが、話している後輩の機嫌が悪い、態度も変えない姿を見ていると虚しくなり、冷徹に扱わざるを得なかった。
怒りをきちんと消しておきたかったが、拒絶しか見せないのなら手を引くしかないと桜井は、何時もより声の質を落とし、この話はこれきりだと突き放す。
桜井は、未だ睨み続けている成瀬を置き、ひとり部室に向かって歩き始めた。
成瀬は黙ったまま立ち尽くし、桜井の大きな背中を見送っていた。


*****


部室にやって来た桜井は、成瀬が置いていったであろう紙袋の中身を確認した。

「だいたい名前は書いてあるな……よし、行くとするか」

数はあれど、バスケットボール部随一の男前・澤村の貰う物に比べれば少ないと、少し時間は掛かるだろうが返せると、桜井はプレゼントをひとりひとりへ返す為に、校内を歩き回るのだった。






「此処が最後か……」

突然現れた長身の先輩に、下級生達は遠巻きに見ていた。
桜井が手に持っていた紙袋の中身は、あと二つ。
その内の一つを手にして、書いてある名前の人物を呼び出して貰う。やって来た女の子に事情を説明し、手中のものを渡して話を終える。
こう言う事は長々としていたくない、自分の意思を示し返す事で理解して貰いたかった。
きちんと話すことで判って貰えるのが大半だが、中には愚図る女の子もいた。しかし、気持ちを伝えるなら成瀬を使うのではなく自身で言うものだと聞かせれば、誰も二の句を継げなかった。

「さて、これで終わったな。後は……」

教室の隅の方から桜井と女の子のやり取りを見ていた成瀬は、顔を青くして見ていた。
そこに居ることは端から承知していた桜井は、逃すかと睨み付け、手招きをした。
先程の事もあり、此処から今すぐにでも逃げ出したいのだが、許される筈もなく重い腰を上げて桜井の元へと足を進めた。

「澤村、成瀬借りていくから後、頼むぞ」

「あいよ、旦那。ギブ・アンド・テーク忘れんなよ」

了解と満面の笑みで手を上げれば、澤村はそれ以上言葉は発せず、ヒラヒラと手を振って二人を見送った。


*****


「まさか全部、返したのですか? 女の子達に失礼じゃないんですか?」

「失礼なのは、どちらだ? 本気で俺の事が好きならば、自分自身で渡しに来るべきだ。そう説明して、全て……じゃないな、一つ以外は本人へ返した」

部室に引っ張ってきた成瀬から非難された事を、桜井は自身の思いも込めて説明し、聞かせた。
すると、成瀬の顔は徐々に下を向き、終始見せていた強気を崩した。

「なら……その中に残っているもの、返して下さい。自分で渡せなかったのだから……」

「今、此処で渡して欲しい。返すつもりの無いものだったからね……」

「渡すつもり、ありません。このまま持って帰りますから……桜井さんの事、何も知らずにすみませんでした。あんなに楽しそうに会話している人が居るのに、俺が邪魔してしまって……」

椅子に腰掛けている桜井の側に置かれた紙袋を成瀬は、手を伸ばして取り上げようとした。刹那、その手を掴んだ桜井は、成瀬の身体を抱き込み、力を込めた。

「俺、何も知らなくて……あの人が桜井さんの事、好きだって言ってました。桜井さんの横に立って話している姿、似合っていて……俺なんか太刀打ち出来なくて……」

抱き込んだ成瀬の腕は何時の間にか桜井の背に爪を立て、皺になるくらい制服を握り締めている。
啜り泣いているのだろう、声を詰めながら思いをぶちまける成瀬は、広い胸元に顔を埋めていた。

「だから、彼奴の言う事は無視してくれ。俺で遊んでいるだけだから……うっかり口を滑らせて、成瀬の事が好きだとか言ってしまったから……」

「……え……ぶはっ!」

「今、顔上げたら怒るぞ! まだ見られたくない……それと、このプレゼントは、手渡しして貰うかなら」

桜井の告白に、成瀬は驚きのあまり顔をあげようとしたが、胸元へ押さえ付けられた。
見られたくないと言ったのは伊達ではなく、成瀬の耳には桜井の、激しく打ち鳴り続ける鼓動が届けられるのであった。




プレゼント
20151123




うまく纏められなくて、スミマセン(T-T)
桜井さんの誕生日に寄せて……
大好きな子からは、直接の「おめでとう」とプレゼントを貰いたいのでありました☆



少しオリジナルをば……
何時も澤村ばかりだったので、その性格に良く似た人を桜井さんのクラスに、腐れ縁のようなキャラが欲しくてチラ、と出してみました。
(あんまり出てくることは無いでしょうが、スパイス的な感じで)



相変わらずヘタレではありますが、お付き合いのほど、ありがとうございました!

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