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三年生が夏の終わりに部活動から引退し、新しく主将になった小林が最近、後片付けをマネージャーの今川に任せ、早々と帰宅している。
今川を始め同学年の部員は、誰一人として止める者も居らず、寧ろ早く帰れと促していた。

「主将、どうしちゃったんだろ……」

「さぁな」

「澤村、知らないの?」

「知ってる訳ねぇだろうが。成瀬君……俺は、アイツの御守りじゃねぇよ」

「でも、一番知ってるよね……主将の事」

「――――さぁて、どうだかな……」

インターハイで無名の上南高校が、怒涛の快進撃を見せた。特に二年生の小林、一年生の澤村と成瀬は、めきめきと頭角を現し、その一端を担って強豪チームと渡り合った。
これから主力としてチームの柱と成るべき三人には、三年生からも連携はしっかりするようにとの達しが出ていた。
だがしかし、その矢先に小林の『現場放棄』ともつかぬ行動、更にはそれを黙認している今川達。
成瀬は心配はするものの、当事者含め回りの人間には聞けず、澤村に話を振った。
何故こちらに話を振るのだと、面倒くさそうに答えた澤村は、今課せられている体育館の片付けに勤しむのだった。




***


「終わりましたー!」

「今ちゃんよぉ~、何で俺は何時も成瀬と組まされてるんだ?」

「澤村!」

先輩に対する態度が何時も度が過ぎると成瀬は、名を呼ぶことで叱る。しかし、一向に態度を変えようとしない澤村は、更に今川に食い掛かった。
見苦しい嫉妬だと、それを露にする自分は間違っていると判っていても、止めるだけの力を澤村の頭と心は持ち合わせていなかった。
――――事、小林が絡めば。


「成瀬の御守りなんざ、最近おサボり気味の主将にでも任せりゃ良いんじゃねか? 生活ギリギリの俺だって、結構真面目に……つっ!!」

部活に出ている――――と言おうとした言葉は、澤村の口から吐く事はなかった。
笑顔を絶やさない穏和な性格の今川が、澤村の頬を叩き、肌を打った音が空に散る。
怒り心頭の今川に、唖然とする澤村、唯おろおろとしている成瀬と。
異様な雰囲気の中、手を振り上げた今川が、深い呼吸をして気を鎮め、口を開いた。

「手を上げたのは、悪いと思う。だけど、小林が理由無くサボったりする訳、ないだろう……気になるなら直接聞くか、家に行くと良いよ」

それだけの言葉を、張られた頬に手をやりながら目を見開いている澤村に残し、今川は部室の扉を開いた。すると寒空の中、明らかに入りそびれていた小林が立っていた。

「今日は大丈夫なのか?」

「……ああ。また明日から少し、頼む」

「判った。成瀬、五分以内に着替えて正門まで来ること。出来れば『なかや』で奢るよ」

「ふっ……ふぁいっ!」

はい、と返事をしたかったのだが、小林の登場により事態の悪化におののき、更に今川に不意討ちで名を呼ばれて驚いた成瀬は、声が恥ずかしい程に裏返ってしまった。
思わず両手で、妙な声を出してしまった口を塞ぎ、自分の名の書かれたロッカーへと駆けて行く。そそくさと着替えを済ませた成瀬は、澤村と小林に一礼して部室を飛び出した。
奢りに食い付いたのもあるが、火花が飛び散るであろう部室に居たい筈もなく、今川の助け船に乗り込むのであった。







「明日からまた、おサボりなんですね、主将は」

「………………」

発した嫌味に否定も肯定もしない小林の横をすり抜けた澤村は、何時も使っているロッカーのドアを、乱暴に開けた。
ガシャン、と怒りを代弁する耳障りな音に、備品の取り扱いに注意をしたかったが、聞く耳持たぬと殺気だった背中を見、声を出せぬまま小林も身支度を始めた。


恋し、恋される二人の間に、永久に続きそうな重い風の流れに逆らったのは、珍しく小林の方だった。
口数が少なく、回りから誤解されることが度々あり、澤村との行き違いもしばしば。判っていた筈なのに、最初にきちんとした説明をしなかったのがいけなかった、と後悔する。

「……澤村、その……すまない」

「は? 何で俺、アンタに謝られる訳?」

相変わらず言葉足りずの小林の謝罪に苛立ったか、澤村は持って行き場の無い気持ちを、またロッカーにぶつけた。けたたましい金属音に思わず怯んだ小林だったが、喧嘩腰の態度に沸々と怒りが込み上げて来た。
目尻が上がり、眉間が寄ってくるのを感じながら、極力穏やかにロッカーの扉を閉める。澤村への弁解は後回しにして、先に雷を落としてやると小林は振り返った。

「アンタさ、俺の目が節穴だとか思ってるのか? 俺が気付いてない訳、ねぇじゃん……バカ野郎」

「――――つっ!」

振り返った小林の目と鼻の先に、音も気配もなく近付いていた澤村の、整った顔があった。切れ長の、何時も透かしている瞳を細め、眉尻を下げた表情が陰る。その顔をして迫まられた小林は、ロッカーに背を押し付けずり上がり逃れようとする。逃すかと手を伸ばして背伸びをした澤村は、首筋へ腕を巻き付け引き寄せた。

「こっ、こら! は、離せっ!」

「何でだよ、何で離さなきゃならないんだよ……今日くらいは良いだろう? 明日からまた、アンタは家の手伝いで早く帰っちまうんだからさ……」

気を使って首を下げてくれれば良いものを、かなり動揺しているのだろう。小林は直立不動でロッカーに寄り添い、硬直していた。
制服の肩口に額を押し当ててしがみ付き、愚図る子供の様に首を左右に振っている澤村の、揺れる黒髪を視線が追う。形振り構わない素を曝け出す姿に、堪らない程の愛おしさが胸に落ちる。と共に小林は、動かせずにいた指先に力を込めると引き上げ、、揺すられ続けている澤村の髪に手を差し込む。無骨で荒れた手ではあったが、出来るだけ優しく穏やかに、その黒髪を撫で続けた。

「兄貴が風邪を引いてな。手伝いをする為に、早々に帰らせて貰っていた。随分と良くはなったが、まだ無理はさせられなくてな。お前に言えば、自分のバイトもあるのに、手伝いに来るとか言いそうで……話せなかった」

髪を撫でていた小林の片手は澤村の背中を抱き、片腕を膝裏に差し込み、軽々と抱き上げた。そのまま近くにあった長椅子に身体を沈めた。

「そっか。早く良くなると良いな」

「ありがとう」

「でも、俺には言ってくれても良いんじゃねえの?」

「しかし、今も言ったが……」

「家の事とか、手伝い云々の前に……」

――――気が気じゃねぇから、ちゃんと話して欲しい。

横抱きにされたまま、自身の嫉妬心を吐き出した澤村は、小林の首筋へ顔を埋めて微動だにしなくなった。
今日は帰らなくとも大丈夫だったのだが、このままでは暫く帰れそうにないなと思いながら小林は、澤村の気が済むまで身体を抱き締めている事にした。




恋々
20150215



長かった。
小林さん誕生日祝いが、バレンタインデーにも引っ掛からず、延び延びで酷い有り様です。
すみません……

元に考えていた落ちとは変わってしまいましたが、その落ちは別の話にて……


少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
にしても、動かせてませんね…何時までたっても、コバサワは。












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