色々と語っております・・・
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旬のものは、取れ立てを素早く頂くのも、これ一興。
片倉の育てている作物のなかに、緑の球体に黒い波線の描かれている西瓜があった。
とても豊作で、これでは食べきれないと隣家や世話になっている達々へと、暑中見舞いがてらに配り歩いた。
馬の背に籠を乗せ、その中へ豊かな実をさせた西瓜を入れる。暑さと重みで参ってしまうであろうと片倉は、程々の数にして幾度か畑と家々を、休憩しながら行き来をしていた。
収穫しても仕切れずに、畑にごろりと転がる西瓜達は申し訳無いと両手を合わせ、腐してなければ食すと唱える。
そして、軽く叩けば一際身の詰まった音をさせていた西瓜を両手に抱え、畑から屋敷へと片倉は戻って行った。
一日の作業を終えた片倉の広い背中を、まだ暑さの残る西日が照り付けていた。
翌日も、とても綺麗に晴れ上がった空が、視界一面に広がっていた。
「政宗様、出掛けますぞ。さぁ、起きて下され」
「む~……まだはやいぞ、こじゅうろ……う……」
小さな身体を敷布に転がしたまま政宗は、愚図る。まだ日も昇りきっていない早朝、朝露が緑豊かな葉にポツリポツリと浮いている。
葉の朝露を政宗の、柔やわとした頬に一滴、片倉は落とす。すると、存外に冷たかったのだろう。愚図っていた政宗は、飛び起きたと同時に片倉へ飛び蹴りを食らわせた。
「お目覚めですな」
「あたりまえだ!!もうすこし、おこしかたのぶをわきまえろ!!」
小さな身体から繰り出される蹴りなど、十分大人な片倉には他愛なく、片手で受け流した。
起きたての身体にしては、俊敏な動きをなさる。
その事が非常に満足、尚且つ、主としての物言いも幼いながらも堂に入り、満足したと片倉は目尻を下げた。
「……こっ、こわいぞ、こじゅうろ」
「申し訳ございませぬ、政宗様。しかし、早くしなければ幸村の元へ到着するのが、遅くなってしまいます」
「わかった。よういを!!」
「はっ!!」
切り替えが早かったのは『幸村』の名を口にしたからであろうと片倉は思うも、そこが素直で愛らしいとまた目尻を下げる。刹那、政宗はびくりと肩を震わせ、後退りをするのであった。
顔を洗い身形を整えた後、政宗が朝飯を食している間に片倉は、道中で口にする用に握り飯を用意していた。
「おわったぞ」
御馳走様でしたと手を合わせ、後片付けをした膳を持ってきた政宗に、手を煩わせてしまい申し訳無いと頭を下げる。しかし片倉へ政宗は、食べさせて貰っているのは自分だから、これくらいはしないと罰が当たると言う。
本当に良い御子に育たれたと、早くしろと政宗に言った割りには、ぐずぐずと涙と鼻を落とす片倉であった。
そしてまた政宗が、鬼瓦の様な表情が崩れた片倉を見、怯えたのは言うまでも無かった。
※※※
朝日が漸く山の稜線から顔を覗かせた頃、西瓜と小さな政宗を馬の背に乗せ手綱を引く片倉は、山間に居を構えている幸村と猿飛の元へ向かう。
御天道様が真上へ来る前に辿り着ければと、少しだけ歩幅を大きくして足を進める。
馬上の政宗は、揺れが心地好いのか欠伸を幾度となく繰り返し、うっかり気を抜けば転がり落ちそうになっていた。
微笑ましい姿に息だけで笑う片倉が気に入らないと政宗は、手綱を握る大人の大きな手を、紅葉のように小さな手で度々と叩くのであった。
夏の煌めく陽射しは、山道に入れば木々の葉が遮ってくれ、風がふわりと吹けば幾分か爽やかな涼を運んでくれる。
先程まで汗をたくさんかいていた二人と一頭は山道を外れ、水香漂う水辺で暫しの休息を取る。
木陰に政宗を降ろしてやると汗を拭き、作ってきた握り飯と茶を入れた竹筒を渡してやる。朝飯が早く腹が減っていたのか、勢い良く口に頬張りむせ返している。背中を擦り、落ち着かせて茶を含ませる。ほぅと息を吐き、ひと心地させていた。片倉も片手に握り飯を持ちながら、行儀が悪いと政宗に叱られながらも馬には川水と野草を食ませてやった。
「元気が出ましたか、政宗様?」
「ここから、あとすこしだな」
「はっ。暫しのご辛抱を」
「だいじょうぶだ、こじゅうろ。うまいにぎりめしではらもふくれた」
「勿体無い御言葉を……あと一息、参りましょう」
「ん」
また馬の背に政宗と西瓜を乗せ、片倉も同じ様に手綱を握り、あと少しで着くであろう居を目指し歩みを進めるのであった。
※※※
「邪魔をするぞ」
開け放たれたままの無用心な門扉を潜れば、早速に猿飛の仕掛けが襲い掛かってきた。
あれほど出向く旨を文に認め、鴉に運ばせていたのに全く意味が無いと怒り心頭の片倉は、右脇に差した刀を抜いた。
飛んでくる矢を凪ぎ払いつつ、政宗と西瓜と馬を護り中へと進む。
普段であればきっと、もっと非情な罠を張り巡らせ、そこに掛かった奴等を嘲笑うことであろう猿飛の性格を知る片倉。
今日は自分達が来る事を分かっているだけに、流石に矢が飛んでくるだけで済んだ様子だった。
門扉を閉じたそこには、分身している猿飛が居り、ある方向を指差して消えた。
「あのしのびがっ!!」
馬から飛び降りた小さな政宗は、指差した方向へと走り始めた。
「おっ、お待ちください、政宗様っ!!まさかとは……遅かった」
木陰で囀ずっていた鳥達が、政宗の空を切り裂く悲鳴に驚き、一斉に飛び立っていった。
片倉も、主がどの様な仕打ちをされているのか、早く確かめなくてはと西瓜を両手に走り始めた。
「たっ……たすけろ、こじゅうろ!!」
「竜の旦那、そのままぶら下がっていたら?涼しくて気持ち良いでしょ?」
「貴様っ!!」
「いらっしゃいでござる~」
わーっ、と無邪気にやってきた小さな幸村は、片倉の足元にしがみつき賑々しくしていた。
正直、猿飛を殴り倒したいのは山々だったが、政宗を一先ず降ろしてやり、手にした西瓜を一つずつ持たせる。
「政宗様と幸村は、この西瓜を冷やして来て下さい」
「んしょ……わっ、わかったでござる!!」
「おっ……おう。ゆくぞ、ゆき!!」
「はい、でござるーっ!!」
幼い二人は、小さな身体をいっぱいいっぱい使って、一生懸命に西瓜を運んで行った。
湧水の出る場所がこの屋敷にはあり、止めどなく流れていた。そこに二人は協力して桶を運び、水が入るように置く。西瓜を中にいれ、楽しそうに叩いたり撫でたりしていた。徐々に冷たくなって行くと共に、まだかまだかと片倉と猿飛を急かす。
「ほっ、ほら……右目の旦那!!二人がお呼びだよ!!」
「煩い!!先程の政宗様への暴挙、許すまじっ!!」
物騒な物を左手に握り締め振りかざした片倉は、足を凪ぎ払い転ばせた猿飛目掛けて切っ先を下ろした。
やられてなるものかと猿飛も、着物の袷に忍ばせていた短刀を手に防戦する。
両刃がかち合い、火花を散らす。
真夏の陽射しを浴びた刃は、ぎらりと鋭い輝きを映していた。
「もうよいぞ、こじゅうろう」
「しっ……しかし、政宗様。あの様な仕打ちを……」
「よいといったら、よいのだ。さっさとすいかをきれ」
「はっ!命拾いしたな、猿飛」
「っつかさ、ちょっとした冗談じゃん」
「あれが冗談なら、命懸けだな……此処へ来るのは」
「あはは。ちゃんと手加減してるんだってば。だから今日は、旦那達以外は屋敷に入れないようにしてるし」
嘘か真か分からない物言いをする猿飛に溜め息を洩らした片倉は、刀を鞘に納め政宗や幸村の居る水辺へと向かう。
猿飛も飄々とした足取りで、大柄な片倉の後ろを
俯き笑みを浮かべてついて行くのだった。
「つめたくて、おいしいでござる!!」
「うまいな、ゆき!!ほら、あんたにもきったぞ」
「ありがとね~竜の旦那。いただきまーす!!」
と、冷えた西瓜を切り分けた政宗と幸村は、二人にも配って回る。
先程、酷い仕打ちをされた政宗は、ここぞとばかりに西瓜に悪戯を施し、猿飛へ渡した。
かぶりついた刹那、塩辛いと大粒の涙を流し、塩気を洗い流そうと湧水を飲み続けていた。
様を見ろ、と口の端を上げて笑う政宗を、片倉と、片倉の膝上で大人しく西瓜を頬張っている幸村は、後にこの二人は何を仕出かすであろうかと見守るのであった。
真夏の果実
20120730
久々のバサラ、ちびっこちゃん達です~
なんかもう少し長くなる予定でしたが、カッツ。苦笑。
西瓜の話なんて書いてますが、私、西瓜苦手です…正直、食えません(;^_^A
暑いので、少しでも涼やかな話をと…季節柄な小ネタを書いてみました。
少しでも楽しんで頂けましたなら幸いです。
お付きあいの程、ありがとうございました!
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