かんなり早いですが、拳崇誕生日小話

唇の
動きをなぞる
君の声

零れる言葉は
愛のシルシ








――――ふぁぁぁ。
十分に睡眠を取っているはずなのに拳崇は、午睡に耽ろうとする。
仰向けに寝そべっている庵の胸元へ身体を乗り上げ、欠伸をし続けていた。
上向いている庵と同じ様に上向いている拳崇の姿は、端から見てみれば可笑しく映るだろう。
しかし、此処は二人だけの世界。
笑うものも、見ているものも居ない。
面と向かって出来ない『馴れ合い』を、拳崇は眠ってしまう前にするのだった。

「……寝るならベッドへ行け。重いぞ」

「えぇやん。庵はん枕がわりにすんの好きやし……温(ぬく)いから気持ちえぇねん」

相変わらず天井と仲良くしている拳崇は、また欠伸をして目尻に溜まった涙を手の甲で擦る。
ぐずり出すと彼の我が儘に手が負えなくなるで庵は、さっさと寝てくれ……と胸の中だけで溜息と共に言葉を零した。

「今……早よ寝ろ！　とか思たやろ？！」

「判っているなら、さっさと寝ろ」

「えー」

――――冷たいわ、庵はん！！
半分、眠りに溶けかけている拳崇の呟きに付き合っていられない庵は、まだ乗っかったままでいる拳崇を置き去りに、自分はさっさと眠りの淵へ飛び込む。
目を閉じて、ゆったりとした呼吸を繰り返す。
そうすると、胸元に身体を乗り上げている拳崇の身体も合わせて上下する。
半分眠りかかっているところに、この揺らぎは気持ち良く拳崇は、庵の呼吸と心音と……体温を心地好く全身で感じていた。
緩やかに揺られていると、不意に髪に手を添えられた。
指先の柔らかいところで髪を梳いてくれている庵の表情が気になったのか、上向いて乗っかっていた拳崇
が身体の向きを変える。

「何やねん……要らん事すんなや」

面と向かえないから、こうして顔を合わせずに触れ合っていたのに。
髪を梳かれる誘惑に負けた己の心が弱かったのに拳崇は、目を閉じたままでいる庵へ文句を投げた。そして、先程の様に仰向けに身体を預けようとしたが、ぐっ、と伸ばされてきた腕によって阻まれた。

「人の所為にするな」

「せやかて悪いんは、庵はんやんか！」

「……少し、黙れ」

「……？！」

伸びてきた力強い腕に搦め捕られた拳崇の身体は、自由を失い庵のなすがままになる。
両の脇に腕を差し込み、胸元に乗せていた頭を引っ張り上げ、額と額を合わせた。

「――――」

「――――にぃ……って、言えるかっ、あほっ！！」

拳崇と庵の額は、ぴたり、と寄り添うと共に、鼻頭も合わさり……唇も、触れるか触れないかの間だった。その時、庵は拳崇の頭を抱き込み、軽く唇を触れ合わせる。声を出さずに唇の動きだけで、瞳の中に映される真っ赤な顔した拳崇へ、愛の台詞を流暢な発音で伝えた。
驚き、頭を後ろへ逃そうとしたが、しっかりと抱き込まれ身動きが取れず、彼の唇の動きと共に、拳崇の唇も同じ言葉を唱える。





悪態を付くも、恋し焦がれる彼の方が一枚も二枚も上手でいて……何時の間にか声にして、愛の台詞を庵へ捧げる拳崇だった。








――――我愛イ尓。
――――私は、あなたを愛してる。








愛のシルシ
２０１００９１６







めっさフライングですが、思いついたのでガリガリっと携帯散文。
帰宅の合間に…やっつけたので、場所の説明とか一切排除ですみません(T_T)


我愛イ尓。
携帯では変換しなかったし、文字の引き方が(読み)？だったので…こんな表記。
実は、めちゃくちゃ好きな言葉です。
英語や日本語で表記するよりも、この表記が一番好きです。
初めて知ったのは『らんま１/２』だったような気がします。




拳崇の母国語…で庵に告白させてみました。
しっかし…濃いシチュエーションになったよ。苦笑。




ともあれ、拳崇…誕生日おめでとう～
めっちゃ早いけど、原稿で殺伐とする前に(思いついたし)…ゲロ甘させていただきました（笑）