色々と語っております・・・
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こちらは本当にご無沙汰してしまって、すみません……
すっかりIQ沼にいて、ピクブラ、pixivには地味に作品あげてますし、イベントにも出ております……相変わらず。
で、澤村の誕生日祝い、書いていたのに此処へ上げていなかったので、桜井さんの分と一緒にあげました。
相変わらずドヘタクソですが、良かったらお付き合いしてやって頂ければ幸いです……
すっかりIQ沼にいて、ピクブラ、pixivには地味に作品あげてますし、イベントにも出ております……相変わらず。
で、澤村の誕生日祝い、書いていたのに此処へ上げていなかったので、桜井さんの分と一緒にあげました。
相変わらずドヘタクソですが、良かったらお付き合いしてやって頂ければ幸いです……
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『夢の終わり、現の始まり』
──なんか目の前に、見慣れた奴がいるんですけど!?
唯、その見慣れた奴は顔だけで、首から下は絶対に『有り得ない姿』なのである。
「正博様、朝食の準備が整いました。お目覚めを」
「は? あの……小林純直さんですよね!?」
そう聞かざるを得ない状況なのは、ここが正博こと、澤村正博の住むパチンコ屋の二階にあるワンルーム。合い鍵は誰かに渡した記憶もない、今、床へ転がっているひとつのみ。
寝る前に鍵は掛けたし、窓から侵入するにもネオンサインが邪魔をして、無理だ。
「フルネームで呼ばなくとも、何時も通り『小林』と呼び捨て下さい」
「アンタ、今、どんな状況か判ってるのか?」
「状況?」
何時もと変わりなく、貴方に仕える執事だと小林は言い、跪いていた床から腰を上げて立つ。
その身のこなしは美しく、女ならば『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』と、あのお決まりの言葉がとても似合う立ち居振る舞いだ。
決して女の柔らかな美しさではない、男の張りのある凛々しい美しさ。
一つ上の先輩だが、とても同じ高校生とは思えないその姿。
周りからは侍だとか呼称されているが、この姿で日本刀なんて構えられたら、女でなくとも一瞬で惚れて堕ちるだろうと澤村は、小林の──今の今まで見たことのない、黒の燕尾服姿に目を疑い、そしてあまりの格好良さに頬が朱に染まっていた。
「今朝は、とてもおかしなことを仰る。私は正博様のお世話をする為に生まれ、そして命を賭して護る為に生きる──唯、それだけです」
「っつかさ、アンタ高校生だし、オレの先輩で、一緒にバスケットボールやってんじゃん!? それなの、にいきなり執事とか、意味わかん──ねっ!?」
何か怖い夢でも見られましたか?と、上着のスワロテイルを揺らめかせ、立ち上がった小林は再び跪く。
未だベッドの上で硬直し、顔と視線だけで燕尾服姿を追っている澤村を見上げ、仏頂面で有名な男はフワリと笑う。
(コイツ、ダレダ──ッ!!)
澤村の知る小林純直は、こんな笑い方をしたことがない。
何時も不器用に、片頬だけをひきつらせて笑う。
心底笑ってもぎこちないそれが澤村は好きなのに、このたらし込むような笑いに吐き気を覚える。
「大丈夫ですか? 酷い汗をかかれています……浴室の準備は整っておりますので、お使い下さいませ。その間に、朝食の準備を致します」
(オレハ、コンナ、キモチノワルイオトコニ、ホレタオボエハ、ナイッ!!)
澤村は、小林の姿に得も言われぬ恐怖を感じ、脂汗が全身から吹き出す。額を流れ落ちるそれを、断り無く生暖かい手で拭われ、今まで硬直していたのが嘘のような、機敏な動きで燕尾服の男と距離をとり、ベッドの端へと逃げる。
それなのに男は、執事だと言うくせに手を伸ばし、澤村にまた触れようとしてきた。
ちら、と切れ長の目をそらせば、外からは侵入できない窓が、漆黒の水晶体に映り込む。
「まさひろさまっ、なにをっ!!」
「オレの知っている小林純直はなぁ、仏頂面でカサハリ浪人で、むっつりスケベでネクラでよ──面と向かっているときは、オレに断り無く……身体に触ったことなんてねぇんだよっ!!」
そう怒鳴った澤村は、たかだか二階だが一歩間違えれば怪我だよな、バスケ出来なくなるなぁ──と頭の端に言葉が過る中、その窓から飛び降りた。
☆
「──が、っ!?」
「どうした? 魘されてたが……ああ、酷い汗だ。触っても大丈夫か?」
飛び降りた記憶は、ある。
しかし、何でそんな夢になったのか、判らない。
皮膚が張り裂けんばかりに啼く心臓と、荒れた呼吸を整えなければと澤村は、自身を抱き締め夢の行方を探る。しかし、飛び降りた場所がここからだと言うことしか記憶にない。
「澤村……」
「あ──ゴメン、カサハリ。大丈夫、触っても……」
「すまん。あとこれ、飲め」
「ありがとう……オレ、なんか……」
目の前にいる小林は断りを入れ、澤村の額から流れ落ちる汗を拭い、氷水の入ったグラスを手渡す。すると身体から出て行った水分を補うように一気に煽り、安堵の息を吐いていた。
握り締めていると力加減が出来ず、割ってしまうかも知れないとそれを取り、床へ跪いて澤村の様子を見上げている。
心配しているのだと、少し目尻の下がった綺麗な翡翠の目で、言葉なく見詰めていた。
とても心配してくれている、本当に断り無く触れない小林に、自分の知っている『小林純直』だと嬉しくなる。
「何かさ、変な夢を見たんだけど、覚えてなくてさ。しかも誕生日にだぜ? 目覚めた時にアンタの顔があって、凄く安心した……居てくれて、ありがとう」
そう言った澤村は、汗かいてるのに悪いなぁと思いながら小林に抱き付き、抱き締めて欲しいと強請る。
風呂も食事も出来ていると言いながら小林は、強請られた通りに澤村の身体をしっかりと抱き、誕生日おめでとうと耳元で囁いた。
20190831
『告白』
三年生が引退し、今は二年生、一年生が一丸となり、試合や練習に精を出している。
秋から冬になろうとする、十一月の終わり。
日の出、日没は夏とは比べものにならないくらい短く、成瀬が帰る頃には、外は既に真っ暗だった。
「はぁぁぁーっ。今日も疲れたーっ……帰って寝るぞ!」
「煩せぇよ。それだけ声、出せんならまだ、走れるんじゃね?」
「お腹空いてるから、無理、走れないっ!」
部活動の練習で疲弊し、泥の中に埋もれたように重い身体を引きずり、のろのろ歩いている成瀬と澤村。
早く帰りたくても、帰れなくて。だけど口だけは達者で、いろんな事を話ながら校門をくぐり抜ける。
「じゃあな、また明日」
「あれ帰り道……羨ましいなぁ」
「な、なんだよ……あ、そうか。悪ぃ」
「ううん、良い。判ってる事だし……じゃあね、また明日!」
成瀬はひとりで駅へ向かい歩き、本来一緒に駅へ向かうはずの澤村は、校門で足を止めた。
大技を繰り出す癖に、存外小柄な後ろ姿を見詰めて、あとでやって来る先輩を待っていた。
☆
「判っている、そんなの全部判ってる。だけど今日……誕生日なんだよね」
とぼとぼと歩いている成瀬の、落ち込んだ表情が、家の明かりで照らし出されている。
顔を上げれば、温かそうな家族模様が目に映り、すぐさま視線をそらせて早歩きをした。
せかせかと歩いていると、額に汗がじんわりと浮いてくる。立ち止まれば、凛と冷えた空気が成瀬を包み、あっという間に汗が引いてしまう。
空気が寒いのと、自分自身の心が侘しいのとで、大きな黒目にうっすらと涙が滲む。
ここで泣いていても、どうすることも、どうなるものでもない。
ぐず、と鼻を鳴らして、風の冷たさが染みて涙が浮いた振りをし、制服の袖で目を擦る。
今までまちまちだった明かりは、駅について煌々として成瀬を包んでくれた。
「学校で一瞬会えたし、誕生日メールも送って、ありがとうメールも貰った。これだけでも良し……に、しなきゃね」
駅舎に入り、定期券を使って改札を通り抜けて、ホームへ上がる。
列車はまだ本数があり、寒くはあったが数分待っていると、すぐに帰る方向の列車がやってきた。
ゆっくりとホームへ進入してきたそれは、ぴたりと成瀬の目の前で止まった。
プシュッ、と空気を吐き出す音をさせ、自動ドアが開けば、中から降りてくる人を待ち、動きがなくなれば成瀬は車両の中へと入る。
ちょうど帰宅する人並みがある時間で、部活動の大きなバックを持つ成瀬は、邪魔になると上の棚に上げようと持ち上げたとき、ふっ、と軽くなり、驚いて後ろを振り返る。
「列車に乗り込むところが、見えたんだ……お疲れ様、成瀬」
「あ──ありがとうございます。桜井さん、今日、遅くないですか?」
「少し先生に、進路のことで質問があったんだ。相談にも乗って貰ってたら、こんな時間だ」
偶然、成瀬に会えたから、残っていたのも良かったかな、と笑いながら側に立つ桜井だった。
出発のベルが鳴り、列車がゆっくりと動きだし、そしてスピードを上げて幾つかの駅を通り越してゆく。
割合と大きな駅に止まる所為か、人の流れが大きく、成瀬や桜井が降りる駅まではまだ少しあった。
今、隙間なく人が車内に乗っていて、成瀬が潰されないように桜井が盾になり、自動ドアへ手を付き、守っていた。
「桜井さん、俺、大丈夫ですから。
腕、痛めてしまいます」
「俺はもう、部活をしていないんだ。少しくらい平気だから、気にするな。お前は試合も控えている、大事な身体だからな」
頭一つ大きな桜井は、成瀬を見下ろし、眼鏡の奥にある優しい目を、細めて見詰めている。
男らしくて、格好良くて、優しい……自分を大切にしてくれる桜井を、人ごみの暑さでではない、真っ赤な顔をして成瀬も見詰め返す。
ガタン、と突然、大きく揺れた瞬間に後輩は、勇気を振り絞ってどさくさ紛れに先輩の、大きな胸に抱き付いていた。
「な、成瀬!?」
「ごめんなさい、少しだけ……桜井さん、お誕生日おめでとうございます……大好きです……」
「うん、知ってる……良かった、今日会えて……ありがとう、成瀬」
次に停車すれば、桜井とは別々の電車へ乗換、また明日──となる。
成瀬は、こうして守ってくれている姿を見て、こんなことを思い付き、行動してしまったのだ。
会えないと思っていた大好きな人に、こうして偶然会えたのだから嬉しくて、大胆になってしまい、恥ずかしくて顔を俯けてしまう。
抱き付いている成瀬の身体へ、急いで腕を回して強く抱き締め、そして棚から荷物を取り、降りる準備を始める。
電車が停車し、成瀬と桜井の前にある自動ドアが開き、人の流れを止めないようにさっさと車両から降りた。
「成瀬、ありがとう。今度、甘いものを食べに行こう……な」
「は、はいっ! 桜井さん、あの……さっきは迷惑じゃなかったですか?」
「迷惑な訳、ないだろう? 大胆で驚いたけど、嬉しかった」
「──っ!! お、俺っ、帰りますっ、お疲れ様でしたっ!!」
また明日に……そう言って軽く手を振る桜井は、仕出かした事に恥ずかしくなった成瀬の、人ごみを避けて走り、小さくなる背中を見送っていた。
20191120
『時間』
「やっと終わった……」
ぐん、と天井向けて大きな手を伸ばした桜井は、立って伸びをしたらグーパンチで天井ぶち抜くかもな、と予備校仲間にからかわれていた。
「進学決めてる奴ってさ、だいたい二年の終わりで部活引退するだろ? お前医者になりたいって言って、部活とかやってて良いのかよ?」
学校とは違う仲間達は、殆どが勉強一本に絞り、部活を引退した人間ばかりだった。
桜井だけがいまだに部活……バスケットボールを続け、それだけでは飽き足りず、数名以外には内緒だがストリートバスケにも顔を出す始末。
身長も体格も、頭も機転も良い。
やり手の桜井がチームから抜ければ、戦力大幅ダウンになること間違い無しだが、やはり先を見据えれば勉強に集中すべきではないかと話す。
「目標高いだけに、何時までもやってらんねぇんじゃない?」
「うちの部は、人数がギリギリいっぱいのところもあるし、俺が抜ければ試合には出られなくなるかも知れない。勉強も大切だが今、少しでも長く一緒にプレイしたい後輩が入って来たんだ。だからこの夏が終わるまで、インターハイ出場目指してプレイしたいんだ」
「おーおー、熱い熱い。意外と天然でクールなお前が、バスケの事になると、ホント熱くなるよな」
「つい、喋りすぎた……悪い」
「それだけ楽しいんなら良いじゃん。羨ましいし、嬉しいよ、そんな桜井見るの」
腹減ったし帰ろうぜ、と音頭とる仲間に付いて、片付け終わった人間から教室を出て行き、桜井も部活のものと教材の入ったバックを肩から担ぎ、予備校の教室を出た。
☆
玄関まで纏まって来たが、また週明けにと挨拶をし、散り散りと帰宅の途に付く。
そんななか桜井は、予備校の隣にあるファストフード店の、道路に面したガラス窓の向こうにいる後輩へ、合図を送る。
部活後で腹が減っているのは判るが、一体いくつ食べたのだ?と、目の前に見えるトレーに乗った紙屑の山に、笑いが込み上げてくる桜井だった。
笑われていることに拗ね、顔を赤くして頬を膨らませる後輩は、慌ててトレーを片付け、桜井と同じようにバックを肩から担ぐ。自動ドアの開く動作が遅いと、出来た隙間に身体を横にして押し込み、無理やり出てきた。
「無茶をするな、成瀬」
「おっ、お疲れ様です、桜井さんっ!! 待たせてしまって、すみません!!」
「待ってない、待ってない。今、このガラス越しに顔、見ていたじゃないか?」
先輩の桜井は予備校で勉強していたのに、後輩の成瀬はファストフード店で、仲間達と少し前までにぎやかしくしていたのだ。
腹も減り、勉強で疲れてるだろうに今日、成瀬の『お願い』を快く聞いてくれた優しい先輩にこれ以上、迷惑を掛けてはいけない。
その思いから急ぐ動作をするのだが、逆に空回りをしている後輩は、ドタバタと無駄な動きをしていた。
額に浮いた汗を拭い、一生懸命に行動する成瀬を見詰め、可愛いなぁと眼鏡の奥にある目を細める。
桜井は、白シャツに黒スラックスの成瀬の背に手を添え、少し食事がしたいとにこやかに話す。
「今から映画だろう? 見ている最中に腹が鳴ると恥ずかしいから、何か食べて良いか?」
「あ──じゃ、この店で一緒に食べれば……す、すみませんっ!!」
「あははは。ま、成瀬はもう食べないだろうから、映画館で荷物と一緒に待っていてくれ。その辺りで適当に、食べてくるから」
「え、えっと……一緒にいちゃ、ダメですか?」
桜井より約二十センチも小さな成瀬は、大きな黒い目で見上げる表情が、恋した人をひとり待つのは嫌だ、置いて行かないでと見えてしまう。
何て顔をするのだ──と。
親からはぐれないように手を握る子供の心理か、先輩へ身を寄せた後輩は、シャツから出ている逞しい腕に手を添えた。
「な……成瀬?」
「あ……あの、桜井さんの貴重な時間を俺にくれたのだから、一分一秒も無駄にしたくない。僅かでも離れているのは──嫌だ」
成瀬の手のひらは熱く、触れ合っている皮膚は更に熱を生み、どちらもじんわりと汗が滲んで来ていた。
初めてストリートバスケで戦った時から、淡く漂っていた感情。
同じ学校で先輩後輩の関係になり、共にコートを駆け回り、日常も共有する事になってから、更にその感情は膨れていた。
今、この姿を目の当たりにし、桜井の成瀬に対する『感情』は、決して消えることないものだと確信する。
「俺、今日、誕生日なんです……大好きな桜井さんと一緒に、少しでも一緒に居たくて映画に誘いました。勉強もあるのに、迷惑なのに桜井さんがオーケーしてくれて、嬉しかった。だから貴重な時間、無駄にしたくない」
成瀬もまた、桜井と同じ『感情』を抱いているのだと。
だから、このような恋をしている表情になるのかと。
桜井は判ったとだけ言い、週末の眠らない街を、はぐれてしまわないように手を握り、歩き始める。
力強い大きな手は熱く、その熱は成瀬の身体をじわりじわりと浸食して行く。
「お、怒りましたか?」
「いや。怒るどころか、明日が日曜日で良かったと……思っている」
食事も映画も、睡眠も目覚めも。
一緒に居ようと、前を向いたまま言う桜井を見上げた成瀬は、眼鏡の弦が引っかかる耳が赤くなっているのを見付ける。
返事の代わりに握られた手を握り返し、前を歩く先輩の背中を、空に浮かぶ月のように丸くした目で、嬉しいですと後輩は見詰めていた。
20190615
『熱い、冷たい』
しょっちゅう来るわけでは無いが、来れば来るほど、見れば見るほど、金持ちの象徴のような屋敷だと草薙京は、そそり立つ鉄門の前で溜息を吐く。
てめぇが住んでるマンションで良いだろう、と愚痴たいのは山々だったが、特別な日だけに仕方ないかともう一度溜息を吐き、インターフォンのボタンを押す。
どなたですかと女性の声で機械越しに問われ、氏素性を言えば直ぐに鉄門が自動で左右へ開き、屋敷中からメイドがやって来る。
呼び付けた癖に本人が出迎えないのかと、目尻と口角を引き攣らせた京は、手にしている物を焼き消してしまいそうになったが、ぐっと堪えた。
メイドに先導されなくても、この家の勝手を判っていたが、特別な日に呼び出されたが故、大人しくその背を見詰めながら後ろを歩いた。
☆
広間からテラス、そして初夏の光浴びる庭には大勢の招待客が、食事や飲み物を手に、またはソファや木陰のベンチへ腰掛け、好き好きに談笑していた。
来るべきではなかったと後悔するも、年に一度くらい我が儘を聞いてやると微々た優しさを見せたのは、自分だったと苦笑いする。
場違いの甚だしさに京は、手のものを擦り付けさっさと帰ろうと姿を探すが、あのど派手な金髪が見当たらない。
テラスから庭を見回し、中へ移動し広間も見たが、どうやらここには今、居ないようだ。
客ほったらかして何やってんだ?と苛々していると、京の存在に気付き始めたか、周囲がざわめき出す。
気付かれたくないのに、金髪の隣に居るだけで否応なく目に付き、そして人々の記憶に残ってしまう紅蓮の焔を纏い、操り闘う草薙の継承者。
同じチームを組む大門五郎と共に、騒がれたくない、地味に静かにして居たいと常々思っているのだが……
「駄目だ、耐えらんね……台所へ行ったら、誰か居るだろう」
視線とざわめきを不快に思い始めた京は、広間を出て誰もいない廊下を歩き、台所と口にしたキッチンへやって来た。
そこにいたメイドに声をかけ、手にした箱を渡し、冷凍庫で保管して貰うように話す。
今日の主役が、一息吐いた時にでも食わしてやって欲しいと伝言し、帰る旨を伝えれば、メイドは引き止めを試みる。しかし頑なに良いと手を振れば京の申し出を尊重し、メイドはエントランスまで見送ると先導を始めた。
彼女達の仕事だから仕方ないかと諦めた京は、またその背中を見ながら歩いていた。
「アイツ居なかったけど、客ほったらかして何やってんだ?」
「きっと、お召し変えだと思います。少し前に、お部屋へ向かわれていました」
「そ。女じゃねぇんだから、着替えなくてよろしいかと思いますが……紅丸さん?」
「仕方ねぇだろう、半分仕事なんだからよ。世話になってるアパレル会社のお偉方が、宣伝兼ねたプレゼントに洋服や着物、作ってきたんだから」
メイドに礼を言い、その役割を変わるために、屋敷の息子で今日の主役である二階堂紅丸が、上階から降りて来た。
闘うときは金色の髪を、守護の雷を纏って逆立てているが、今は降りているそれを後頭部で束ねて紫の紐で括り、結び目に一輪のカサブランカと数本のカスミソウが挿してある。
女物のように見える緋色の着物に銀糸で織り込まれた花吹雪、漆黒の帯を締めている紅丸は、これも宣伝塔の役目なんだと苦笑していた。
「しっかし派手だな……これ以上、近寄んじゃねぇぞ、紅丸」
「つれないなぁ京……だから仕事なんだってば、半分。あそこにいる人達さ、着飾ってるじゃん? 招待状には普段着でって書いたのに、あれだぜ? もう目の前にいる京が、普通ですっごい落ち着くんだ」
「だいたいなぁ、てめぇの誕生日祝いの会を、てめぇで開く奴がい──居たな、はい、目の前に居ました」
「はぁー……やっぱ落ち着く。こんな砕けた口調で喋れんのと、この何時もと変わんない出で立ちに、癒される」
「嫌みかよ。渡された招待状なんて中身、見てねぇし、お前が来い来いっつーから来ただけだ。顔も見たし、あの中には混じりたくねぇから、帰るよ。見送り、ご苦労さん」
仕事上プラス女好きで人当たり良い紅丸だったが、こと、この草薙京に素っ気なくされたり、つれなくされたりすると一気に精神状態が真っ暗になる。
元々少し垂れた目尻を更に下げ、着物の袖を指先で弄り、帰らないでくれと蒼い目を潤ませていた。
強請られる事など、今に始まった事ではない。
しかし花を纏い、綺麗な着物に、恐ろしく整った顔に何時もと違うものを感じた京は、両手を腰に当て、盛大に溜息吐いて呆れていた。
因みに京も、紅丸に言わせればモテる顔してる癖に、すぐに威嚇の表情をするものだから女が逃げる、と宣うくらい、格好良いのである。
さておき。
まだ誕生日の祝い一つも言ってないなと、日頃つっけんどんな京だったが、今日ぐらいは甘えさせてやるかと紅丸に、部屋へ行っていろと階段を指差す。
部屋に追い払い、その間に帰ってしまうのか?と言う体を、言葉無くする紅丸の耳朶を引っ張り、言うことを聞けと命令した。
「良いか、部屋から出てくんなよ! ちょっと預けたもん、取ってくる」
「あ、うん……判った……」
何て面、するんだかと苦笑いして、帯の巻かれた腹を手の甲でトントンと叩き、すぐ行くからと言い聞かせて京は、キッチンへ再び戻って行った。
☆
──コンコン、コン。
勝手知ったる二階堂家の、紅丸の部屋の前、京は扉をノックして開かれるのを待つ。
中で暴れているのか、ドタバタとしている様が手に取るように判る音と、慌てて上擦った声で中から返事をした紅丸は、扉を少し開き顔を覗かせた。
「何やってんだ?」
「ごめん……京がなかなか部屋に来なくて……いてっ!!」
帰らないと言っただろう!!と京は、信用ならないのかと怒り心頭で、黒目をつり上げている。
その表情に萎縮する紅丸を殴り、しっかりしろと更に怒って見せていた。
本当に。
この色男は、何をそこまで怯えるのだろうか。
それは自分にだけだと知っている京は、綺麗にセットし花を添えられた金髪を撫で、紅丸を押しのけ部屋へ入った。
「ごめん……」
「もう謝んな。ほら皺にならないように気を付けて、椅子に座れよ」
「京みたいに着物、慣れてないから……ありがとう」
「確かに。少し崩れてる、ちょっと立て……良し、直った。またこれから下、行くんだろう?」
「この着物見せたら、最後。毎年の事だから開いたけど、今年は京が目の前に居てくれる確証あったら、しなかったのになぁ」
「はぁ? なんだそれ!?」
「だってさ、誕生日に惚れた人と一緒に居るの、良いじゃん」
「何だかんだ言って誰かさん、しょっちゅう俺に絡んで邪魔しに来て、鬱陶しいんだけど?」
──絡みたくなるじゃん、惚れてんだから。
紅丸の着物を整えてやり、着崩れないように椅子へ腰掛けさせた京は、萎れている癖に饒舌でいる男の頬に、持ってきた物を押し当てた。
冷たいっ!?と蒼い目を丸くして驚き、ぽかんと開いた口内へ、小さな木製のスプーンで掬ったそれを、差し入れる。
それは、京が持ってきた紅丸への誕生日プレゼント──コンビニエンスストアで買った紙カップ入りの、何の変哲もないバニラアイスクリームだった。
京の部屋や紅丸のマンションで良く食べる、二人が美味しいと気に入っているもの。
階下では豪華で煌びやかな世界が広がっているのに、この部屋はシンプルで安価な、二人だけの甘くて優しい世界が出来上がる。
「美味いか? もっと食う?」
「ん……冷たくて美味しい、いつもの味。京が食べさせてくれるなら、もっと食べたい」
「行かなくて、良いのかよ?」
「意地悪言うなよ、自分で誘ってる癖に……でも、待ってるって約束してくれるなら、行こうかなぁ」
「バカが……」
椅子へ腰掛けている紅丸が開く口へ、正面に立つ京は雛鳥に餌を与えるが如く、掬ったアイスクリームを差し入れ、食べさせていた。
結局、ひとつ食べ終わった頃に重い腰を上げた紅丸は、プレゼントありがとう、行ってくると言う。
そして我が儘聞いてくれた京を、皆に見付からないように裏門から帰えそうとしたが、不損にして尊大に椅子へ腰掛けた。
「あれ? 見送りに……」
「いらねぇ。待っててやるから、さっさと下、行ってこい」
「──あ、あぁ!!」
京の待っているの言葉に、招待客が絶対に見ること無い華やかな笑顔をして、行ってくると部屋を出て行った。
紅丸を見送り、大きく息を吐いた京は、半分溶けているだろう未開封のアイスクリームを、照れで熱くなった頬へ当て、冷やしていた。
20190607